「『甘い物や脂っこい物はダメ』。こういった不健康な食事のイメージって本当に正しいのかな?」「科学的に証明された情報を知りたい」
今回は、こんな疑問や関心がある人に向けて、世界の大規模研究が示す「不健康な食事」の内容を医療ライターのショウブ(@freemediwriter)が紹介します。
結論から言うと、
- 塩分が多すぎる
- 全粒穀物が少なすぎる
- 果物が少なすぎる
世界的にはこれら3つの要素が病気の罹患と病気による死亡の大きな原因になっているそうです。
「塩分が多いのはわかるけど、ほかの2つについてはちょっと意外」。わたしのように思う人もいるのではないでしょうか。
具体的に伝えていきますね。
医学誌で研究結果が発表
2019年4月、英医学誌「ランセット」のウェブサイトに不健康な食事の影響を調べた大規模研究「GBD(世界の疾病負担研究)」の結果が発表されました。
ランセット
- 「世界五大医学雑誌」の一つ。世界的に権威のある雑誌と言われている。
- 医学論文提供サイト「論コレ」によると、雑誌の影響度などを示す「インパクトファクター」は2020年発表のもので60.4。これはトップ(74.7)の「New England Journal of Medicine(NEJM)」に次いで高いスコア。
GBDは「世界各国の死因を調べる最も権威のある調査」(BBCニュース)と言われており、米ワシントン大学保健指標評価研究所(IHME)のクリストファー・マレー所長を主任研究者とし、日本を含む145カ国以上、3600人以上の研究者が協力したそうです。
研究資金を提供したのはビル&メリンダ・ゲイツ財団です。
ビル&メリンダ・ゲイツ財団
マイクロソフト創設者のビル・ゲイツ氏と元妻のメリンダ氏により、2000年に創設された世界最大の慈善基金団体
GBDの内容と結果
ランセットによると、研究チームは1990年~2017年にかけて、195カ国の成人(25歳以上)が食べている食品や栄養素15種類の量を評価し、病気と死亡に与えている影響を調べました。
結果、下のことがわかったといいます。
- 2017年では成人のおよそ5人に1人(22%)の約1100万人が不健康な食生活によって死亡している。これは喫煙が原因の死亡者より多い
- 不健康な食生活によって起こった病気として最も多かったのが心血管疾患、次いでがん、3番目が2型糖尿病だった
研究チームは「食事の改善により、世界的に5人に1人の死亡を防げる可能性がある」としました。
GBDが示す「不健康な食事」
では、GBDが示す「不健康な食事」とはどんなものでしょうか。
不健康な食事で死亡した約1100万人の死因の割合は下の通り。
- 心血管疾患 約1000万人(死亡)
- がん 約91万人
- 2型糖尿病 約34万人
これら全体の半数以上に影響した食事の特徴が下の3つだといいます。カッコ内は単一の要素が影響した死亡者数です。
- 塩分が多すぎる(死亡者約300万人)
- 全粒穀物が少なすぎる(同約300万人)
- 果物が少なすぎる(同約200万人)
採用された15種の食品・栄養
研究内容と結果をもう少し詳しく見ていきましょう。
この研究に採用された15種の食品・栄養とそれぞれの最適摂取量は下の通りです。論文掲載の表をもとに作成しました。
食品または栄養 | 1日の最適摂取量 | 最適摂取の範囲 |
果物 | 250g | 200~300g |
野菜 | 360g | 290~430g |
豆類 | 60g | 50~70g |
全粒穀物 | 125g | 100~150g |
ナッツ・種子 | 21g | 16~25g |
牛乳 | 435g | 350~520g |
赤身肉(豚、牛、子羊、ヤギ) | 23g | 18~27g |
加工肉 | 2g | 0~4g |
砂糖入り飲料 | 3g | 0~5g |
食物繊維 | 24g | 19~28g |
カルシウム | 1.25g | 1~1.5g |
魚介類オメガ3脂肪酸 | 250㎎ | 200~300㎎ |
多価不飽和脂肪酸 | 総エネルギーの11% | 9~13% |
トランス脂肪酸 | 総エネルギーの0.5% | 0~1% |
ナトリウム(塩分) | 3g | 1~5g |
これらの消費量が最適な国は「一つもなかった」そうで、中でも最適摂取量に比べて大きく足りていなかったのが下の食品だといいます。
食べる量・飲む量が足りていない食品
食品 | 1日の摂取量 | 最適摂取比 |
ナッツ・種子 | 3g | 12% |
牛乳 | 71g | 16% |
全粒穀物 | 29g | 23% |
一方、取りすぎているのが塩分と砂糖入り飲料で、この2つは「ほぼ全ての地域で最適な量よりも多かった」。
赤身肉と加工肉も同様だそうです。表にまとめておきます。
食べすぎ・飲みすぎている食品
食品 | 1日の摂取量 | 最適摂取比 |
塩分 | 6g | 186% |
砂糖入り飲料 | 49g | ?(数字を見つけられず) |
赤身肉 | 27g | 118% |
加工肉 | 4g | 190% |
日本の特徴
世界の傾向はわかった。肝心の日本の特徴はどうなの?
読者の関心事だと思うので、これについても紹介しますね。
- 人口が多い20カ国に絞ると、食事が起因する人口10万人当たりの死亡率が最も低かった(97人、0.00097%)
- 同条件で、食事が起因する心血管疾患での死亡率も最も低かった(10万人中69人、0.00069%)
- 同条件で、食事が起因する2型糖尿病での死亡率も最も低かった(10万人中1人、0.00001%)
- 中国、タイと並んで「塩分の取りすぎが食事による死亡の主因」になっている国に挙がった
課題はあるものの、日本は世界的に健康的な食事を取っている国のようです。
興味深かったのが、「塩分」と「心血管疾患での死亡率」です。
論文によれば、日本は塩分の取りすぎが食事による死亡の主因になっているそうですが、その一方で、食事が起因する心血管疾患での死亡率が低い結果が出ています。
塩分の取りすぎが高血圧症を招き、心筋梗塞などを引き起こす、つまり死亡率を上げるという想像ができますが、これはどういうことなのでしょうか。
日本は世界的にも医療の質が高い国(下記事参照)なので、医療介入によって「死亡まで至らないことが多い」ということでしょうか。
論文では言及されていませんでしたが、面白いですね。
日本の食事の問題ランキング
なお、この論文について毎日新聞で解説している内科医の大西睦子医師によると、日本で「どの食品の取りすぎや不足が死亡に大きく影響しているか」の順番も公表されているそうです(わたしは解読できませんでした)。
- 塩分を取りすぎている
- 全粒穀物が少ない
- 果物が少ない
- ナッツ・種子が少ない
- 野菜が少ない
- カルシウムが少ない
- 食物繊維が少ない
- 加工肉を取りすぎている
これは参考になります。
世界的な食事の問題まとめ
研究チームは調査結果を踏まえ、下のようにまとめました。
塩分と砂糖、脂肪が過去20年の食事政策論争の焦点だったが、この研究により、死亡率を高める食事の要因は「塩分が多く、全粒穀物が少なく、果物が少なく、ナッツや種子が少なく、野菜が少なく、オメガ3脂肪酸が少ない」ことが示された。
これらの摂取促進に焦点を当てた食事政策が、砂糖と脂肪のみを対象とする政策よりも大きな効果を持つ可能性がある
さらに、環境面にも触れていました。
赤身肉や加工肉などの不健康な動物ベースの食品から、野菜や果物、全粒穀物などの健康な植物ベースの食品へのシフトは、温室効果ガスの排出削減に関連している可能性がある。環境的な持続可能性を高めることを示す証拠も出てきている
日本ではよく「野菜をたくさん食べよう」と言われますが、厳密には「塩分を減らし、もっと全粒穀物と果物を食べよう。そして、ナッツと野菜も食べるように」というメッセージの方が優先順位としては正しいのかもしれません。
あくまで全体的な傾向性を重視する情報ですが、とても面白かったです。
医療ライターの庄部でした。
記事内の情報、考え、感情は書いた時点のものです。
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