調査・取材

日本の医療の質は世界的に高い? 医学雑誌掲載の国際調査を読み解く

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「日本の医療は質が高いと聞いたことがあるよ」「でも、国内のニュースではあまりいい話を聞かないね。問題点がよく指摘される印象」「世界的に見るとどうなのかな?」

今回は、こんな関心や疑問がある人に向けて、医療ライターのショウブ(@freemediwriter)が日本の医療の質を想像できる国際調査の結果を紹介します。

「日本の医療制度や医療人材の質は世界的に見ても高い」

過去に取材した複数の医師はこう話しており、「低い」と話す人とはまだ出会っていません。

わたしも過去の取材経験などから日本の医療を肯定的に見ていて、中でも国民皆保険制度が整備されている点は素晴らしいと考えています。

こうした印象の正当性は国際的な調査結果である意味、裏付けられました。

日本は医療の質を評価したランキングで上位に位置づけ、地域間格差も対象国の中で最小だったのです。

少し前の結果ですが、一つの指標として参考にしてみてください。

医学誌に医療の質ランキング掲載

2018年5月、英医学誌『ランセット(Lancet)』オンライン版に、世界195カ国・地域を対象に医療へのアクセスと質を評価したランキング(2016年版)が掲載されました。

ランセットは、「世界五大医学雑誌」の一つであり、世界的に権威のある雑誌と言われています。

医学論文提供サイト「論コレ」によると、雑誌の影響度などを示す「インパクトファクター」は2020年発表のもので60.4。これは、トップ(74.7)の『New England Journal of Medicine(NEJM)』に次いで高いスコアです。

ランセットに掲載された調査結果は、米ワシントン大学保健指標評価研究所(IHME)のラファエル・ロザーノ(Rafael Lozano)氏らが、世界疾病負担研究(GBD)2016のデータを活用し、1990~2016年における指標を開発・解析したものです。

資金提供をしたのは、「ビル&メリンダ・ゲイツ財団」。マイクロソフト創設者のビル・ゲイツ氏と妻のメリンダ氏により、2000年に創設された世界最大の慈善基金団体です。

今調査における、医療へのアクセスと質を評価するための「指標」とは、「HAQインデックス(ヘルスケア・アクセス・アンド・クオリティー・インデックス)」と呼ばれるもの

論文によると、HAQインデックスは、「適切な医療を受ければ予防や効果的な治療が可能」と考えられる病気や状態を32種類挙げ、それぞれについて「防ぐことができる死をどれほど防げているか」を調べて数値化したものだといいます。

なお、スコアは0~100に設定し、数が増えるほど「医療へのアクセスや質が高い」とみなされます。

「適切な医療によって予防や効果的な治療が可能」とした病気・状態は、麻しんや破傷風などの感染症、大腸がんや乳がんなどのがん、虚血性心疾患などの心血管疾患、虫垂炎などの消化器疾患、てんかん、白血病、糖尿病、慢性腎臓病、母体障害、治療の副作用などです。

日本は12位、地域間格差は最小

論文によると、日本のHAQインデックスは94で、195カ国・地域の中で12位でした。

日本のHAQインデックスHAQインデックス上位国(論文より引用)

見やすいよう、順位と国名、HAQインデックスをまとめておきますね。

順位 国名 HAQ 人口(約)
1 アイスランド 97 36万人
2 ノルウェー 97 533万人
3 ニュージーランド 96 504万人
4 ルクセンブルク 96 63万人
5 オーストラリア 96 2565万人
6 フィンランド 96 551万人
7 スイス 96 861万人
8 スウェーデン 95 1022万人
9 イタリア 95 6046万人
10 アンドラ 95 7万7500人
11 アイルランド 95 492万人
12 日本 94 1億2541万人
13 オーストリア 94 880万人
14 カナダ 94 3789万人
15 ベルギー 93 1149万人

なお、下位5カ国は中央アフリカ共和国(19)、ソマリア(19)、ギニアビサウ(23)、チャド(25)、アフガニスタン(26)でした。

論文で言及された日本医療の特徴

この論文の中で日本の特徴に触れていた部分を和訳して紹介します。

  • 地域間格差は日本が最小だった
  • 2016年には、ほぼ全ての日本の都道府県がHAQインデックスの上位10分の1を占めた
  • 「日本では2000年から2016年にかけて都道府県間の絶対差は4.8ポイントに縮まった。一方、米国は同期間にかけてさほど進展が見られず、イングランドの格差は1990年以降、むしろ少し高まった。中国では地域間格差が2000年以降急速に広がり、2016年もこの差は高いままだった」

この調査では、国ごとのHAQだけではなく、州や都道府県など国内地域のHAQも割り出し、示しました。

論文に記載されていた下の図を見れば、日本の医療の地域間格差が小さいことが視認しやすいかと思います。

日本、イングランド、アメリカ、中国、メキシコ、ブラジル、インドのHAQインデックスが示されています。HAQインデックス91.3超が「紫」、82.2~91.3が「青」で記されています。

日本では最高ランクの「紫」がほとんどの地域を占めますが、イングランドは半分ほど、アメリカは5州にとどまります。

人口比では日本の優秀さ際立つ?

ここで、HAQ上位国の人口を見てみましょう。外務省のサイトで調べ、上の表に記載しました。

日本の人口が圧倒的に多いことがわかりますよね。

わたしは、人口が多いほど医療水準を高く保つのは難しいように思うのですが、どうでしょう。

日本は国土が狭くて人口密度が高いので、物理的には医療アクセスが良くなりやすいかもしれません。

よって、単純に「人口が多いから医療水準を高く保つのは難しい」と考えるのは適切ではない可能性がありますが、とはいえ人口の差がかなり大きいのは無視できないように思います。

この国際調査からは以下のことが言えそうです。

  • 日本は世界的に見て医療の質が高い
  • どこに住んでも比較的に高水準の医療を受けられる

国内メディアの報道では問題点が挙げられがちなので、日本の医療の印象にはバイアス(先入観や偏見)がかかりやすいのではないでしょうか。

こんなふうに調査結果や論文をチェックする習慣をつけていると、現状を捉える精度が高まるように思います。

医療ライターの庄部でした。

記事内の情報、考え、感情は書いた時点のものです。

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