調査・取材

薬用石けんは危険? FDAと厚労省の対応を紹介【普通石けんで十分】

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「薬用石けんなどの抗菌グッズは使用を控えて。ある成分が有害だと考えられているから、使うなら石けんや石けん素地だけを使ったボディソープを」

薬用石けんは危険なのか?

過去にこのブログで紹介した健康本『最高の体調』の中で、 筆者のサイエンスライター・鈴木祐さんが冒頭のように発言していたため、興味を持ちました。

【記者レビュー】医師には書けない健康本『最高の体調』の要約と感想サイエンスライター・鈴木祐さんの著書『最高の体調』は、従来の健康本とは一線を画す内容。体調を整える方法を多角的に語っています。詳しくレビューしました。...

そこで今回は、医療ライターのショウブ(@freemediwriter)が過去に国内外で行った“薬用石けん騒動”を紹介しつつ、「殺菌」「消毒」をうたう商品を購入・使用するときにチェックしたい成分とその悪影響などについて考えてみたいと思います。

具体的には下のことを書いていくので、興味のある人は参考にしてみてください。

  • 米国が19成分含有製品を販売禁止にした理由
  • 米国の動きを追った日本の対応
  • そもそも「薬用石けん」とは?
  • なぜ「耐性菌」ができると問題なのか
  • FDAが禁止した成分が商品に含まれていないか調査
  • ライター庄部の考え

記事を書くに当たり、厚生労働省のホームページや新聞社など複数のメディアの報道を参考にしました。最下部にそれらのリンクやPDFをはっておきます。

FDAが19成分含有製品を発禁に

薬用石けんの成分について注目が集まった発端は、2016年にさかのぼります。

9月2日、アメリカの食品医薬品局(FDA)が、抗菌作用がある「トリクロサン」や「トリクロカルバン」など19の成分を含む製品について、米国内での販売を1年後に禁止すると発表したのです。

FDA…アメリカ合衆国の政府機関。食品と薬品を中心に、化粧品や玩具、タバコなど、消費者が接する機会の多い製品の認可や違反取締を行う。「アメリカ食品医薬品局」と訳される。―知恵蔵mini

主な理由はこうだといいます。

  • 普通の石けんより「感染症の予防効果が高い」証拠がなかった
  • 長期使用における安全性が検証されていない
  • 長期使用によって耐性菌ができる可能性がある

報道によれば、FDAは2013年から薬用石けんを製造する企業に有効性などのデータを提出するよう求めていたといいます。

これは、薬用石けんに含まれる成分が動物実験でホルモン分泌に悪影響を与えた報告があったことを受けての対応だったそうですが、結局、企業側はデータを提示できませんでした。

よってFDAは、「薬用石けんが普通の石けんよりも病気や感染症に効果があるという根拠が示されていない」と結論づけるとともに、トリクロサンが細菌を殺す仕組みが抗生物質のそれに似ており、「長く使うことで耐性菌ができる可能性がある」と指摘したそうです。

FDAが使用禁止した19の成分

FDAが使用を禁止した19の成分は下の通りです。出典は厚生労働省のプレスリリースです。

1 Cloflucarban ( クロフルカルバン、ハロカルバン)
2 Fluorosalan (フルオロサラン)
3 Hexachlorophene ( ヘキサクロロフェン)
4 Hexylresorcinol ( ヘキシルレゾルシノール)
5 Iodophors (Iodine-containing ingredients) Iodine complex (ammonium ether sulfate and polyoxyethylene sorbitan monolaurate)
6 Iodine complex (phosphate ester of alkylaryloxy polyethylene glycol)
7 Nonylphenoxypoly (ethyleneoxy) ethanoliodine
8 Poloxamer-iodine complex
9 Povidone-iodine 5 to 10 percent
10 Undecoylium chloride iodine complex
11 Methylbenzethonium chloride ( メチルベンゼトニウムクロリド、塩化メチルベンゼトニウム)
12 Phenol (greater than 1.5 percent) ( フェノール)
13 Phenol (less than 1.5 percent) ( フェノール)
14 Secondary amyltricresols
15 Sodium oxychlorosene
16 Tribromsalan (トリブロムサラン)
17 Triclocarban  トリクロカルバン、トリクロロカルバニリド)
18 Triclosan ( トリクロサン、トリクロロヒドロキシジフェニルエーテル)
19 Triple dye

これらのうち、2016年までに日本で使われてきたのはトリクロサンとトリクロカルバンだといいます(詳細は下記)。

FDAの措置を受けた日本の対応

日本もFDAの判断を支持し、厚労省はすぐに「日本石鹸洗剤工業会」と「日本化粧品工業連合会」に働きかけました。

両団体は同年9月30日までに、米国と同様に19成分を含まない製品に切り替えるよう会員企業に求めました

ただし、日本でのこうした対応は薬用石けんやハンドソープ、ボディソープに限定されており、同成分が使われる可能性があるシャンプーや化粧水、歯磨き粉、ウェットシートなどは対象外だといいます。

ちなみに、EUはFDAが対応を取る1年前の2015年に、トリクロサンの衛生用品への使用を禁止にしたそうです。

そもそも「薬用石けん」とは?

ここで、「薬用石けん」とはそもそも何なのか説明しておきますね。

薬用石けんとは、抗菌剤(抗生物質)が入った石けんを意味しています。

抗菌成分が一定濃度あれば、厚労省の承認を得て製品に「薬用」と表示したり、「殺菌」「消毒」などと宣伝したりすることができます

薬用石けんの位置づけは、医薬品医療機器法(旧薬事法)に基づく「医薬部外品」であり、「医薬品」と「化粧品」の中間の存在です。

日本では1990年代に病原性大腸菌O157の被害が広がったことで抗菌剤が注目され、トリクロサンが配合された薬用石けんなどが広く使われるようになったそうです。

2016年までの禁止成分流通状況

では、2016年までに日本ではどれほどの製品にこれらの成分が含まれていたのでしょうか。

厚労省のプレスリリースによると、薬用石けんは同年までに約800品目が承認されており、同省が行った調査によると、日本ではFDAが禁止した19成分のうちトリクロサンとトリクロカルバンの2種類を含む製品が流通していたといいます。

具体的には、トリクロサンを含む製品が172品目、トリクロカルバンを含む製品が58品目流通していたそうです。

製品名と企業名は厚労省が公表しているので、興味のある方はこちらの資料を参考にしてみてください。

薬用石けん製造販売状況調査について(医薬・生活衛生局医薬品審査管理課)

なお、「これらの製品は全て1年以内(2017年内)に代替新規申請または承認整理予定である」と記載されていました。

また、厚労省によれば2つの成分による健康被害は2016年までに報告されていないといいます。

なぜ耐性菌が生まれると問題か

FDAは19の成分が含まれる製品を販売禁止にした理由について、有効性や安全性が高い根拠がなかっただけでなく、長期間の使用によって耐性菌が生まれる可能性があることも挙げています。

なぜ、耐性菌が生まれると問題なのでしょうか。

「耐性菌」とは、抗生物質が効かない細菌のことです。

抗生物質とは、細菌などの微生物の成長を阻止する物質であり、医療用としては肺炎などの治療に活用されています。

つまり、肺炎の治療など抗生物質の投与が必要な際、その患者が耐性菌に感染していれば治療の効果が低かったり出なかったりする恐れがあるわけですね。

一つの細菌に対して耐性を持つ耐性菌であれば、ほかの抗生物質を投与することで回復を目指せますが、複数の細菌に対して耐性を持つ「多剤耐性菌」に感染していた場合、治療は一層、困難になるといいます。

抗生物質の不適切な使用と耐性菌の増加は現在、世界的な問題となっており、厚労省の資料によると、耐性菌に起因する死亡数は2013年現在、少なく見積もって年間約70万人。増加のペースが変わらない場合、2050年には約1000万人に上り、がんによる死亡数を超えると推測されています。

日本でもこの問題は例外ではなく、2019年12月に国立国際医療研究センター病院と国立感染症研究所の研究グループが発表した推計によると、国内では耐性菌による死亡数が8000人以上と考えられるそうです。

過去に取材した複数の医師によると、抗生物質の「不適切な使用」の最たる例に挙げられるのが「風邪への処方」

風邪の原因のほとんどは細菌ではなくウイルスであり、抗生物質を投与しても効かないといいます。

しかしながら日本では過去、風邪による体力低下をきっかけに細菌に感染する「二次感染」を予防するため、抗生物質の処方が広く行われていたといいます。

今では抗生物質に二次感染の予防効果がないことがわかっているそうですが、こうした歴史があることから、「風邪には抗生物質」という思い込みが人々に根強く残っているというのです。

「『抗生物質は不要』といくら説明しても納得してくれず、処方を望む患者さんはいます…」

医師の中にはこうこぼす人もいます。

がんによる死亡者を超えるかもしれない――。そう聞けば、耐性菌の増加が切実な問題として伝わってくるのではないでしょうか。

わたしたちにできることは、まずは「風邪に抗生物質は不要」という基本的な知識を持っておくこと、医師に抗生物質を処方された場合はその理由を尋ねることの2つだと思います。

話を戻しましょう。

FDAは「トリクロサンとトリクロカルバンも抗生物質と同様に、使い続ければ耐性菌ができるかもしれない」と、そう判断したわけですね。

トリクロサンが今の商品に含まれていないか

厚労省の方針により、現在、薬用石けんとハンドソープ、ボディソープについてはトリクロサンとトリクロカルバンが使われていないと考えられますが、実際はどうなのでしょう。

2020年12月5日と6日、自宅近くのスーパーに出向き、対象外のシャンプーや歯磨き粉を含め、名の知れた商品に表示されている成分を全てチェックしました。

結果、調べた下の商品全てに「トリクロサン」と「トリクロカルバン」の記載はありませんでした

薬用石けん

  • キレイキレイ薬用泡ハンドソープ
  • ビオレu泡ハンドソープ
  • ミューズ泡ハンドソープ

ボディソープ

  • ダヴ プレミアムモイスチャーケア
  • ビオレu ボディウォッシュ
  • ナイーブ ボディソープ

シャンプー

  • TSUBAKI プレミアムモイスト
  • エッセンシャル シャンプー
  • ラックス シャンプー
  • パンテーン プレミアムダメージリペアーシャンプー

歯磨き粉

  • クリアクリーン
  • クリニカ
  • デンタークリアMAX

まとめ―ライター庄部の考え

  • ネットでの「危険!」発言は短絡的
  • とはいえ、代替成分の安全性がわからない
  • そもそも、医薬部外品は成分表示ルールが甘い
  • 購入前に成分の有無を確認した方が無難
  • 手洗いは普通の石けんで十分

今回の調査を経たわたしの考えは上の通りです。それぞれ説明しますね。

ネットでの「危険!」発言は短絡的

トリクロサンとトリクロカルバンに絡むネット上の発言の中には、この2つの成分が「とても危険なもの」だと捉えて注意喚起をしているものがあります。

しかし、単純に「危険」の2文字で済ませてしまうのは短絡的でしょう。

FDAが19成分を含む製品を販売禁止にした理由は先述の通り、下の3つです。

  • 普通の石けんより「感染症の予防効果が高い」証拠がない
  • 長期使用における安全性が検証されていない
  • 長期使用によって耐性菌ができる可能性がある

わたしの認識としては、これらの情報からただちに「危険」とは結び付けられす、「危険な可能性がある」に留まります。

「危険であること」と「その可能性があること」の意味は違います。

代替成分の安全性がわからない

とはいえ、トリクロサンとトリクロカルバンの代わりに使われるようになった成分がどんなものであり、それらが安全かどうかは今のわたしにはわかりません。

花王のホームページには「ビオレu泡ハンドソープ」に含まれていたトリクロサンを「イソプロピルメチルフェノール」に替えたとの情報が載っていましたが、これをどう捉えていいかわかりません。

医薬部外品は成分表示ルールが甘い

加えて、薬用石けんが該当する「医薬部外品」は「成分表示ルールが甘い」という情報にも留意しておく必要があるように思います。

わたしが過去にレビュー記事を書いたスキンケア本『美容常識の9割はウソ』の中で、筆者の医師・落合博子さんがスキンケア製品の種類を解説しつつ、「医薬部外品の注意点」としてこう語っていたのです。

医薬部外品は化粧品よりも成分表示ルールが甘い。

化粧品とは違って全成分の表示が義務付けられていないため、厚労省に認められた有効成分以外はごまかしが可能とも言える。

つまり、メーカーにとって都合の悪い成分を隠して売ることもできる。

「医薬品」「医薬部外品」「化粧品」の説明も載せておきます。

医薬品

…病気の診断・予防・治療を目的としたもので、有効成分の効果を厚労省によって認められたもの。

医薬部外品

…厚労省認可の有効成分が一定濃度で配合されたもの。医薬品より効果が穏やかで、「防止・衛生」が目的。日本独自。

化粧品

…医薬部外品よりさらに効き目が穏やかで、「肌を健やかに保つ」目的で作られる。効き目を表記することはできない。

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結論「普通の石けんで十分」

以上のことから、わたしはこう考え、行動しようと思います。

  • スキンケア商品などを買うときは念のため、成分を確認する
  • 普段の手洗いは普通の石けんで十分

トリクロサンとトリクロカルバンが確実に危険とはわからないが、安全でない可能性はあるから、何らかのスキンケア商品を買う際は念のためにこの2つの成分が入っていないかチェックする。

手洗い用の商品としては薬用ではなく、普通の石けんを買う。

FDAの見解や厚労省の発表、上に挙げた2つの本の内容などから「手洗いは普通の石けんで十分」とわたしは考えました。

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こちらの記事にも書きましたが、厚労省は「手や指に付着しているウイルスの数は、流水による15秒の手洗いだけで100分の1に、石けんやハンドソープで10秒もみ洗いし、流水で15秒すすぐと1万分の1に減らせる」としています。

普通の石けんを使って、丁寧に手洗いをすればウイルスおよび細菌は十分に減らせるということでしょう

以上、医療ライターの庄部でした。

良質なスキンケアについて詳しく知りたい人は先ほど挙げた下の記事を参考にしてみてください。

「肌の刺激を考えるとボディソープよりも石けんの方がお勧め」「弱酸性の商品が肌に優しいエビデンスはまだない」「化粧水は肌を弱めるリスクがある」など興味深い情報がたくさん載っています。

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記事内の情報、考え、感情は書いた時点のものです。

記事の更新情報はツイッター(@freemediwriter)でお知らせします。

参考

トリクロサン等を含む薬用石けんの切替えを促します(厚生労働省)

FDAの措置の概要等について(医薬・生活衛生局医薬品審査管理課)

薬用石けん製造販売状況調査について(医薬・生活衛生局医薬品審査管理課)

多剤耐性菌を正しく理解するためのQ&A(日本感染症学会)

「薬用せっけん」使って大丈夫なの? 米国で使用停止になった成分が入っていて…(産経新聞)

米国「抗菌せっけん販売禁止」騒動 日本への影響は…(J-CASTニュース)

抗菌石鹸「効果に科学的根拠なし」で販売禁止に:米国(WIRED)

「薬用石けん使用禁止」から1年。いまだに危険成分が使われるのはこの商品!(ヘルスプレス)

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