「甘い物が虫歯の原因になる」
多くの人が知っていることだと思いますが、ではなぜ、甘い物が虫歯の原因になるのか、甘い物を食べることによってどんなメカニズムで虫歯が起きてしまうのか、これらのことを知っている人は意外と少ないのではないでしょうか。
結論からいうと、細菌が糖分を栄養にして酸を出し、歯を溶かしてしまうからです。
今回は、医療ライターショウブ(@freemediwriter)が虫歯が起こるメカニズムを詳しく解説していきます。
虫歯の原因を知ることで歯を守る意識が高まりやすいと思いますし、歯を守るためにはどうすればいいか想像しやすくなるでしょう。何より、人間の体に害を及ぼす仕組みを知るのは案外、面白いものです。
2019年10月現在、211人の歯科医師を取材してきた情報をまとめます。ご参考ください。
歯を失う原因の3割は虫歯
まずは虫歯について簡単に説明しますね。
虫歯は厳密にいうと、「口の中の細菌の働きによって歯が溶かされる病気」です。歯学的には「齲歯(うし)」や「カリエス(ドイツ語)」と呼ばれます。
虫歯
歯の硬い組織が、口腔内の細菌の作用による食べかすの発酵で溶解し、破壊される状態。また、その歯。虫食い歯。齲歯(うし) ―デジタル大辞泉
虫歯は歯周病と並んで歯科における二大疾患で、歯がなくなる原因としても歯周病に次いで高い割合を示しています。
厚生労働省によると、2005年に全国2000余りの歯科医院で行われた調査結果では、歯が失われる原因の割合としては歯周病が最も高く42%、次いで虫歯が32%だったことがわかっています。
虫歯の発症にはミュータンス菌などが関係
ではなぜ、虫歯は起きてしまうのでしょうか。
冒頭に書いた通り、細菌の働きが大きく関係しています。
私たちの口の中には数多くの細菌が住んでいて、日本臨床歯周病学会によると、その数はおよそ300~500種類と言われています。
その中に、虫歯の発症に関わる細菌も複数いるわけです。取材の場でよく名前が挙がるのが「ミュータンス菌」で、虫歯の原因菌の一つと考えられています。
ミュータンス菌は球状の細菌で、大きさはおよそ1㎛(マイクロメートル、1000分の1㎜)。
生まれたての赤ちゃんの口の中には存在せず、大人が口をつけたスプーンや箸などで赤ちゃんにものを食べさせることで感染すると言われています。多くの場合、2歳ごろまでに人から移るそうです。
唾液は虫歯を防ぐ強い味方
さて、ここからが興味深いのですが、ミュータンス菌を始めとする虫歯の原因菌にはある独特の働きがあります。それは、糖分を分解して酸を作り出すというものです。
細菌が生成する酸は歯の成分であるカルシウムやリンを溶かしてしまいます。これを「脱灰(だっかい)」と言います。
ただし、細菌が酸を出したらすぐに虫歯になるかといえばそうではありません。私たちには「唾液」という頼もしい味方がいるからです。
唾液は細菌が出す酸を中和したり、酸によって溶けだしたカルシウムやリンを歯に戻してくれたりする働き(再石灰化)があるのです。
だからたとえ甘いものを食べたとしても、すぐには虫歯にならずに済んでいるんですね。
どこか「汚いもの」としてイメージされやすい唾液(つば)ですが、虫歯を防ぐ働きがあることを知ると印象が変わるのではないでしょうか。
そんな風に唾液は虫歯になるのを防いでくれているわけですが、唾液の働きが追い付かないほど細菌が口の中で増えてしまったり、細菌のエサである糖分をたくさん摂っていたりすると、虫歯になりやすくなります。
虫歯が発症する3つの条件
虫歯が発症する条件は主に3つあります。これらが重なり合いながら、一定の時間が経過することで虫歯が起きてしまうといいます。
1、虫歯の原因菌の数
ミュータンス菌などの虫歯の原因菌が口の中にたくさんいると、生成される酸の量が増えてしまうため、虫歯になりやすくなります。
歯磨きやフロスなどのセルフケアによって細菌の住処である歯垢(プラーク)を取り除くことで細菌を減らすことができます。
歯垢(プラーク)
口の中の細菌が出す白いネバネバとした物質。歯の表面に付着して細菌の住処となる。
歯垢が時間の経過に伴って唾液などと合わさると硬くなり、歯磨きでは取れなくなってしまう。この状態を「歯石」と呼ぶ。
2、食習慣
糖分をたくさん摂っていると、細菌が酸を出すためのエサが増えてしまいます。
歯科医師から「糖分が多く含まれていて発症リスクを高める」ものとして聞くのが、スポーツドリンクや缶コーヒー(無糖以外)、口に長く留まりやすいアメやキャラメルなどです。
3、歯の質
「肌が荒れやすい」「風邪を引きやすい」といった体質があるように、虫歯になりやすい人、なりにくい人がいるそうです。
細菌が出す酸への耐性が人によって違うためです。歯の再石灰化を促すフッ素を塗布することで、ある程度歯の質を強くすることができるといいます。
噛み合わせ、歯ぎしり・食いしばりも原因に
上に挙げたことが歯科医師から聞く主な虫歯の原因ですが、最近は噛み合わせの悪さや歯ぎしり・食いしばりに言及する歯科医師が増えてきました。
噛み合わせが悪いと特定の歯に過度に力が加わってしまい、やがて歯の表面にあるエナメル質がはがれてしまって、エナメル質の下にある象牙質という層がむき出しになってしまうといいます。
象牙質はエナメル質よりも軟らかく、細菌が出す酸に対する抵抗力が弱いので、虫歯になりやすくなってしまうそうなのです。
また、成人のおよそ8割は就寝中のどこかのタイミングで歯ぎしりや食いしばりをしているといいます。
この間にはおよそ体重の3~4倍もの力が歯にかかっていて、知らず知らずのうちに歯にダメージを与えているそう。
歯ぎしりや食いしばりが続いていると、歯にひび割れ(クラック)ができて、その隙間から細菌が侵入して歯の内部で虫歯が起きしまうことがあるというのです。
歯ぎしりと食いしばりの原因としてはストレスや遺伝が関わると考えられているそうですが実際はよくわかっていないらしく、「予防は難しい」と歯科医師は話します。
その一方で、たとえ歯ぎしりと食いしばりが起きていても歯と歯が直接ぶつからなければダメージは受けないわけなので、夜間用のマウスピースを勧める歯科医師もいます。
詳しくは下の体験の記事を参考にしてみてください。
まとめ
口の中には糖分をエサにして酸を出す細菌がいる。
細菌が増えたり、糖分を摂りすぎたり、摂った糖分が口の中に長く留まっていたりすると虫歯が起きる可能性が高まる。
以上が今回の要点です。
甘い物を食べ過ぎないようにしたり、歯磨きやフロスなどで口の中を清潔にしたりすることの大切さがよりイメージしやすくなったのではないでしょうか。
この記事を読んでくれた人が、少しでも歯に関心を持ってくれたらうれしいです。
医療ライターの庄部がレポートしました。
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