医療本レビュー

【要約】病気の予防が見込める「オートファジー」を活性化させる方法

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「病気や老化の予防法について詳しくなりたい」「オートファジーっていう細胞の働きが美容効果も見込めると聞いたけど、一体どんなものなんだろう」

今回は、健康や美容に関心がある人に向けて、医療ライターのショウブ(@freemediwriter)が人間の体に備わっている機能「オートファジー」について紹介します。

世界的に活躍する研究者が書いた本を要約します。

先に結論を書くと、オートファジーには以下の効果が見込めるそうで、これは日頃の生活習慣によって自ら活性化を目指せるといいます。

  • がんやアルツハイマー病、生活習慣病など各種病気の予防
  • 免疫アップ
  • 炎症の抑制
  • ワクチンの効きを良くする
  • 美白などの美容効果

「薬などによらず、自分で機能の向上を目指せる」点が魅力だとわたしは思い、筆者の話す方法を実践しています。

後半に書く「オートファジーの活性化が見込める食事の方法」と「食べ物」、「オートファジーの働きが悪くなる食べ物」は実用性の高い情報かもしれません。

参考にしてみてください。

要約した本『LIFE SCIENCE』

わたしが要約した本は、日本の研究者である吉森保(よしもり・たもつ)氏の著書『LIFE SCIENCE(ライフサイエンス)ー長生きせざるをえない時代の生命科学講義』です。

吉森氏は、オートファジーを研究している細胞生物学が専門の研究者。大阪大学大学院生命機能研究科と医学系研究科の教授を兼任しています。

オートファジーは、東京工業大学栄誉教授の大隈良典氏が2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞した分野であり、吉森氏は過去、大隈氏と一緒に研究していたそうです。

大隈氏が20年以上前に研究を始めたころから師事し、同氏からの独立後もオートファジーの研究を続けているといいます。

吉森氏の研究チームが2000年に発表した論文の被引用数(他の論文で言及された数)は世界で5000を超え、「オートファジー分野ではトップ」

ライフサイエンスは2020年、日経BPより刊行されました。

この本は333ページに及ぶボリュームで、科学的思考法の身につけ方や細胞の構造、遺伝子・DNA・タンパク質の関係などについても書かれていますが、この記事ではオートファジー部分の要約に絞ります。

構成は下の通りです。

  • ざっくりオートファジーとは
  • オートファジーの仕組み
  • オートファジーの働き
  • オートファジーと寿命の関係
  • 加齢で働きが悪くなる理由
  • 「病気」「免疫」「炎症」「ワクチン」「美容」との関係
  • オートファジーが活性化する食事法
  • オートファジーに良い食べ物・悪い食べ物

ざっくりオートファジーとは

  • 細胞が自分の力で(細胞内を)新品にする能力
  • 病気から細胞を守る守護者のようなもの
  • 製薬会社や化粧品業界が医療・美容の効果に注目

筆者によると、オートファジーはざっくり言えば、「細胞が自分で(細胞内を)新品にする能力」だそうです。

人間の体は細胞が集まってできており、どんな病気もどこかの細胞が悪くなることから始まります。

細胞を新品にして劣化・悪化を防ぐオートファジーは、「さまざまな病気から細胞を守る守護者のようなもの」。

現在、がんやアルツハイマー病、パーキンソン病、脂肪肝や心不全などさまざまな病気を治せるのではないかと、世界中の製薬会社が熱い視線を送っているといいます。

また、オートファジーは化粧品業界からも注目されており、アンチエイジングや美肌との関係性が模索されているそう。

「オートファジーを活性化させて病気を治したり防いだりする薬の開発がこれから急ピッチで進むはず。私たちもその一助になればと日夜研究しています」

オートファジーの仕組み

  • 細胞内のものを回収・分解し、リサイクルする現象
  • 分解しているのは細胞内の消化酵素
  • タンパク質をアミノ酸にして再利用している

オートファジーは細胞内のものを回収・分解・リサイクルする現象であり、わたしたちは毎日、細胞の中の部品を少しずつ分解して入れ替えているそうです。

細胞の中でどんなことが行われているのか簡潔に言うと、「細胞内の膜がいろいろなものを取り込んで移動し、分解役と合体して分解を進める」といった感じのよう。

細かく要約すると、以下の流れでオートファジーは進むといいます。

  1. 細胞に「隔離膜」という平たい膜ができる
  2. 隔離膜は伸びながら、細胞内のタンパク質などを包み込む
  3. 細胞内の物質を取り込みながら、小皿→丼→壺のような形になり、最後に球体の袋になる(球体の袋を「オートファゴソーム」という)
  4. オートファゴソームは細胞内にある線路のようなものに乗り、分解機能を持つ「リソソーム」まで運ばれる。
  5. オートファゴソームとリソソームが融合する。この状態の袋を「オートリソソーム」という
オートファジーの仕組みを示したイラスト(出典:吉森研究室ウェブサイト)

リソソームは消化酵素が入っている袋であり、ここであらゆるものを分解しているそうです。

例えばタンパク質は分解されてアミノ酸になります。このアミノ酸はオートリソソームの膜にある小さな穴を通って外に出て、再利用されます。つまり、再びタンパク質の材料になったり、エネルギーの元になったりします。

タンパク質は食べ物から吸収していると思われているかもしれませんが、人間の細胞の中で作られるタンパク質は、多くはオートファジーでできたアミノ酸の再利用によるもの。ずっと使い回しているのです」

オートファジーの働き

オートファジーの仕組みがわかったところで疑問に浮かぶのが、「オートファジーにはどんな意味があるのか」。

筆者によれば、三つの働きがあります。

  1. 飢餓状態時に、細胞の中身を分解して栄養源にする
  2. 細胞の新陳代謝を行う
  3. 細胞内の有害物を除去する

栄養をつくる

これはオートファジーの仕組みが見つかったときから推測されていたそうで、「酵母から人間まで、おそらく全ての真核生物にある最も基本的なオートファジーの働き」といいます。

真核生物…「真核」と呼ばれる細胞核を持つ生物。核と細胞質がはっきりと区分される。動物や植物などがこれに当たる。

原核生物…原始的な細胞核「原核」を持つ単細胞生物。細菌、マイコプラズマ、ラン藻類などがそう。

生まれたてのマウスはミルクを飲まないと死にますが、それでも24時間は生きるそう。しかし、オートファジーが全身でできないようにしたマウスは生後12時間で死んだといいます。

「つまり、出生時に全身の細胞でオートファジーを激しく起こして栄養をつくり、お母さんからの栄養補給が断たれたことによる飢餓を生き延びているのです。人間では実験できませんが、おそらく同じ結果になるはず」

細胞の新陳代謝を行う

この働きも重要だそうで、筆者は「車のメンテナンス」に例えています。

「何もしていなければ車は10年で中古品になりますが、故障していなくても毎日部品を交換していれば、新車の状態が維持されます」

車の故障は人間で言えば、「病気になること」を意味します。

実際、特定の臓器でオートファジーが起きないマウスを遺伝子操作でつくる実験をしたところ、この臓器で病気が起きたといいます。

「細胞に問題がない状態でも、常に細胞内を壊してつくる作業(新陳代謝)がとても重要だとわかりました」

細胞内の有害物を除去する

オートファジーには、病原体などの有害物を除去する働きもあるそうです。

ただし、HIVやSARSウイルス、赤痢菌などオートファジーでは殺せないものもあるといいます。

この働きのなかで、「最近注目されている」のが、タンパク質の塊も取り除くこと。

「アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患は、脳細胞(神経細胞)の中にタンパク質の塊ができ、そのせいで細胞が死ぬために起こります。(細胞内を掃除する)オートファジーは脳の病気を治療する切り札になるかもしれないと期待されているのです」

筆者によると、神経細胞にはある特徴があるそう。

人間の体をつくる細胞はそれぞれ寿命が異なっており、胃や腸の表面にあるものは1日ほど、赤血球の細胞は3~4カ月ほど、骨の細胞は10年ほども生きるといいます。このくらいの間隔で細胞が古いものから新しいものへ入れ替わっていくわけです。

一方、神経細胞と心筋細胞は人が死ぬまで同じ細胞がずっと使われます。細胞内にタンパク質の塊がたまって細胞が死んでしまうとそのままであり、進行したアルツハイマー病患者の脳をCTで見ると「すき間だらけ」と筆者は言います。

神経細胞におけるオートファジーの重要性がわかりますね。

ちなみに、オートファジーでタンパク質の塊が除去されるのであれば、そもそもアルツハイマー病やパーキンソン病にならないのではないかと想像されますが、「加齢によってオートファジーの能力は低下してしまう」そう。

年を取ると、なぜか細胞内のものを取り込んで形成されるオートファゴソームができにくくなるといいます。

寿命とオートファジーの関係

  • オートファジーの活性化で寿命が延びる
  • カロリー制限がその方法の一つ

オートファジーがどんなもので、どんなふうに私たちの健康に役立っているかざっくりとわかったのではないでしょうか。

筆者はさらに、インパクトのある情報を伝えてくれます。

「どうすれば生物の寿命が延びるか」はある程度わかってきており、その方法のいずれであっても、実現すればオートファジーが活性化するというのです。

つまり、老化と寿命にオートファジーは深く関わっており、「オートファジーを活性化させれば、老化の抑制につながる可能性が高い」。

寿命を延ばす五つの方法

筆者が挙げる寿命延長の方法は下の通り。

  1. カロリー制限
  2. インスリンシグナルの抑制
  3. TORシグナルの抑制
  4. 生殖細胞の除去
  5. ミトコンドリアの抑制

ピンと来づらいものもありますが、一つずつ触れます。

1、カロリー制限

摂取カロリーを減らすことで寿命が延びることは、線虫やハエ、マウス、猿などを使った実験で証明されているそうです。

人間ではまだ確かめられていませんが、「1食の摂取カロリーを減らしたり、食事をときどき抜くプチ断食を行ったりすることが、寿命を延ばすのに効果的だと言われています」。

どんな断食方法がベストかはまだわかっておらず、筆者は「最も実行可能な方法は毎日1食抜くことかもしれません」と述べています。

2、インスリンシグナルの抑制

インスリンをあまり働かないようにすると、寿命が延びることも動物実験でわかっているそうです。

インスリン…すい臓にある細胞群・ランゲルハンス島のβ(ベータ)細胞から分泌されるホルモン。血糖を低下させる働きがある

3、TORシグナルの抑制

TORの働きを止めてしまうと死んでしまいますが、「抑え気味」にした方が寿命にはプラスに働くそうです。

TOR…「ラパマイシン標的タンパク質」と呼ばれるタンパク質。細胞の中にあり、細胞の増殖や代謝をコントロールする。タンパク質の合成も促進する。

4、生殖細胞の除去

生殖と寿命の関係は深く、子どもを産むと死んでしまう生き物は少なくないと筆者は言います。

だからでしょうか。さまざまな動物実験により、生殖細胞を取り除くと長生きすることが照明されているそうです。

人間では実験できませんが、筆者は中国や朝鮮の宮廷に仕えた「宦官(かんがん)」を例に挙げ、想像を促します。

宦官(男性)は生殖器を取りますが、「彼らは、40代後半から50代前半で亡くなる男性が多かった時代に、平均して70歳まで生きた記録があります」。

5、ミトコンドリアの抑制

ミトコンドリアの機能を抑えると長寿化する、という報告もあるそうです。

ミトコンドリア…真核生物に存在する器官。エネルギーをつくったり、呼吸機能を担ったりする

上記の1~5について相互関係はありませんが、どの方法でも結果的にオートファジーが活性化するそうです。

そこで、「寿命を延ばすためにはオートファジーが要かも」と考えた研究者たちは、「寿命延長」と「オートファジー活性化」に因果関係が成り立つかを調べました。

因果関係二つの事柄に原因と結果の関係があること。一方が変化すれば他方も変化する「相関関係」とは異なる

筆者によると、遺伝子変異があり、エサをあまり食べられない線虫は普通の線虫より寿命が長いそうです。

この線虫にオートファジーが働かないように遺伝子操作をしたところ、寿命が延びなくなったといいます。

「これで、カロリー制限による寿命の延長にオートファジーが必要だという因果関係がわかりました」

また、線虫やハエ、マウスを使った実験により、加齢によってオートファジーの働きが悪くなることも示されたそう。

まとめると、複数の実験結果で以下のことが確かめられているといいます。

  • カロリー制限でオートファジーが活性化、寿命が延びる
  • 年を取るとオートファジーの働きが悪くなる
  • オートファジーの働きが悪くなると1~5がキャンセルされ、寿命は縮む

加齢で働きが悪くなる理由

ここで、新たな疑問が浮かびます。「なぜ、年を取るとオートファジーが働きにくくなるのか」

これについて、筆者が調べました。

すると、加齢によって「ルビコン」が増えたことで、オートファジーの働きが悪くなることがわかったそうです。

ルビコンとはタンパク質の一種であり、筆者らの研究チームが2009年に見つけたものだといいます。

具体的には、線虫、ハエ、マウスを対象に実験したところ、いずれも加齢によってルビコンが増え、オートファジーの働きが悪くなったそう。

続いて、遺伝子操作によってこれらの生物のルビコンをなくして実験したところ、年を取ってもオートファジーの働きは悪くなりませんでした。

これで、「加齢によってオートファジーの働きが悪くなるのはルビコンの増加が原因」だと確かめられたといいます。

さらに筆者は、「年を取ってもオートファジーの働きが悪くならなかったら寿命がどうなるか」も調べました。

すると、ルビコンをなくした線虫やハエの寿命は、オートファジーが活性化することで平均で20%も延びました。

また、ルビコンのない線虫は老いても動き続けていました。それは通常の2倍ほどであり、「人間であれば、80歳くらいなのにフルマラソンを涼しい顔で走っちゃうような衝撃」。

筆者は自身の実験結果を振り返り、こう言います。

「線虫は年を取りながらも若いころの体の機能を保っているのかもしれません。つまり、生き物はルビコンを抑えると寿命が延び、同時に老化を食い止められるという可能性が示されたのです」

オートファジーの効果まとめ

ここまでで、オートファジーの仕組みと働き、オートファジーと「加齢」「老化」「寿命」の関係を学びました。

次からは、より「役に立つ」と思われやすいであろう情報を伝えていきます。

オートファジーと「病気」「免疫」「炎症」「美容」の関係を要約しますが、少し長いので先に結論を書いておきますね。

オートファジーは……

  • 多くの病気の発症・予防に関係
  • 免疫機能を発揮する際にも必要
  • 炎症を抑える働きもある
  • ワクチンの効きにも関係
  • 美白を促す働きも

それぞれ、見ていきましょう。

オートファジーと関係のある病気

生活習慣病

2型糖尿病、動脈硬化、高尿酸血症、脂肪肝はオートファジーと関係があるそうです。

2型糖尿病を例に挙げると、インスリンを分泌するすい臓のβ細胞で、オートファジーに必要なタンパク質の遺伝子を破壊したマウスは、インスリンの出が悪くなって2型糖尿病になったといいます。

神経変性疾患

アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、ALSなどはオートファジーが鈍くなると悪化すると見られています。

肝臓がん

肝臓でオートファジーができないマウスはがんになるという報告があり、「オートファジーが肝臓がんを防いでいる可能性が高い」と筆者。

ほかの臓器でオートファジーを止めてもあまりがんにはならないといいます。

腎臓病

腎結石の原因となる結晶が血中にできると、腎臓の細胞のリソソームに穴が開くので腎機能が低下します。これを腎症といいます。

穴の開いたリソソームを除去するオートファジーの働きが悪くなっていると、腎症が悪化するそう。

健康なマウスも腎臓でオートファジーができないと、年を取ったときに腎臓の機能障害を起こすといいます。

心不全

心臓でオートファジーができないマウスは、年を取ったり心臓に負担をかけたりすると心不全になることがわかっているそうです。

オートファジーは免疫機能にも必要

オートファジーは免疫アップの効果も期待できるといいます。

免疫力は健康に大きく影響すると考えられており、老化などによって免疫力が低下すると、肺炎などの感染症にかかりやすくなり、重症化しやすくなります。

また、免疫力の低下は糖尿病やアルツハイマー病の発症・悪化にもつながると言われており、ワクチンが効きにくくなるデメリットもあるそうです。

免疫機能は主に免疫細胞が担っていますが、「免疫細胞が生成され、免疫機能を発揮するときにオートファジーが必要になる」といいます。

また、体内に異物が入ったことを察知したり、異物を攻撃したりして免疫に働くT細胞ができるときにもオートファジーが必要になるといいます。

オートファジーは炎症抑制作用も

筆者らの研究によると、オートファジーは炎症を抑える働きがあることもわかっているそうです。

具体的には、炎症によるサイトカインの分泌を抑えるといいます。

ワクチンの効きを良くする働きも

さらに、オートファジーにはワクチンの効きを良くすることも見込めるそう。

たとえワクチンを打ったとしても、オートファジーが活性化しないと抗体をつくれないそうで、老化した人のB細胞のオートファジーを活性化すると、抗体をつくる能力が回復した研究結果があるといいます。

抗体…免疫機能を持つタンパク質。体内に入った異物(抗原)を除去する。抗原に対応して生成され、その抗原にのみ反応する。

B細胞…免疫細胞の一つ。骨髄内の細胞から分化したリンパ球。T細胞と一緒に働き、抗体をつくる細胞に分化する。

オートファジー活性化で美白効果も

これもまた驚きましたが、「皮膚の色の決定にはオートファジーが関わっている」そうです。

その理由を要約します。

肌の色は「メラニン」と呼ばれる色素で決まります。メラニンは黒褐色をしているため、メラニンが多ければ皮膚は黒くなり、少なければ白くなるといいます。

皮膚の色を決めるメラニンは、「メラノソーム」という細胞小器官の中に含まれます。メラノソーㇺは、「メラノサイト」という色素細胞でつくられます。

細胞小器官…細胞内で一定の機能を果たす構造体の総称。「オルガネラ」ともいう。核やミトコンドリア、リソソームなどがそう。

メラノサイト→メラノソーム産生→メラノソーム内にメラニン含有

こんなイメージでしょうか。

メラノサイトはメラノソームをつくった後、これを近くにある角化細胞(ケラチノサイト)に送ります。角化細胞はつまるところ、わたしたちが見ている皮膚。

皮膚は角化細胞の集合体であり、角化細胞がメラノサイトからメラノソームを受け取って、皮膚の色が決まるわけです。

このとき、メラノソームに含まれるメラニンが多ければ皮膚は黒くなり、少なければ白くなります。

では、これらの仕組みとオートファジーはどう関係しているのでしょうか。

筆者は細胞内のさまざまなものを分解するオートファジーの働きから、「オートファジーはメラノソームも分解する」と考えました。

実験したところ、「確かに、角化細胞でメラノソームがオートファジーによって分解されていることを確認しました」。

続いて、筆者はこんな実験をしました。

白人と黒人の皮膚の細胞を培養したところ、白人の皮膚の細胞ではオートファジーが活発だった一方、黒人の皮膚の細胞ではあまり活発ではなかったそうです。

これで、「オートファジーが肌の色の決定に関わる」ことが確かめられました。

次に、日本人の皮膚で実験しました。

オートファジーを活性化させる薬剤を、培養した日本人の皮膚にかけたところ、メラノソームが分解され、「肉眼でも皮膚の細胞の色が白くなった」そうです。

筆者はこう言います。

「オートファジーをうたう化粧品でエビデンスのあるものはまだ聞いたことがありませんが、可能性は大いにあると思います。研究が進めば、オートファジーを活性化することで、(美白だけでなく)しわが減ったり、肌のハリを取り戻したりすることも夢ではなくなるのでは」

がん細胞を助ける点に注意

オートファジーの良いところを書いてきましたが、注意すべきこともあるそうです。

それは、「がんにかかると、オートファジーががんを助けてしまう」こと。

筆者によると、がん細胞もオートファジーの能力を持っています。

がんは転移するとき、血管を離れて組織の中に潜り込みますが、「血管から離れるということはつまり、周りから栄養を得られないということ」。

このとき、がん細胞はオートファジーによって自分で栄養をつくり、生き延びてしまうというのです。

抗がん剤で治療されたときも、がん細胞はオートファジーの作用によってエネルギーをつくり、対抗するそうです。

これらのことから、「がんになったらオートファジーを止めた方が良い」とされており、アメリカでは抗がん剤とオートファジーを止める薬を併用する治験が行われているといいます。

日常でのオートファジー活性化法

オートファジーを活性化するメリットを書いてきました。オートファジーは、「飢餓状態時に活性化する」とのことですが、常に自分をそのような状態に陥らせることは危険でしょう。

では、現実的にどのような生活習慣を心がけるとオートファジーは活性化しやすいのでしょうか。

こちらも先に結論を書いておきます。「食事の方法」「オートファジーを活性化させる食べ物」「オートファジーの働きを悪くさせる食べ物」「運動」の点から。

  • 食事回数を減らすことが現実的
  • 発酵食品、豆類、キノコ類、サケなどで活性化
  • 脂っこいもので鈍化
  • 適度な運動も良い

オートファジーは食後4時間超で活性化

オートファジーは細胞内が飢餓状態になると活性化するので、「食事をとらなければ間違いなく活性化する」といいます。

空腹時間の目安としては、「食後4時間もすれば活性化する」そうで、「一食抜けば、さらに上がります」

実験で寿命延長が確認できた線虫と人間が同じかはまだわかりませんが、人間でもカロリー制限やプチ断食はオートファジーによって寿命を延ばす可能性が高いそう。

短期的な実験は人間でも行われたことがあるといいます。

週に5日、食事を野菜スープとサプリメントだけにしてカロリーを大幅に制限したところ、3カ月ほどで体脂肪と血圧が減少し、「IGF—1」の数値が下がったそう。

IGF—1は成長ホルモンの一種で、食べ物を食べた後、血中に栄養成分が増加したときにそれを感知して細胞を活性化させる働きを持ちます。

この数値を抑えた方が長生きすると考えられているそうですが、カロリー制限によってこれが下がったことは、「相関関係だが心強いデータ」と筆者。

カロリー制限をどう行うのがベストかはまだわかっていませんが、「1日の食事回数を減らすことは比較的実行しやすいのでは」と話しています。

中国には100歳以上の高齢者がたくさんいる地方があるそうですが、「ここではみんな朝食を食べていなかった」そう。

断食の注意点

一方、「極端な断食はお勧めできない」と筆者は注意喚起します。

断食によってオートファジーが最も活性化するのは筋肉を支える細胞内であり、マウスの実験では、1、2日エサをあげないと筋肉がまず細くなったといいます。

人間でも手や足の筋肉から細くなっていくそうですが、エネルギーをためる働きを持つ脂肪細胞は「なかなか減りません」。

「手足が細く、お腹がぽっこり」という体型になるリスクがあることから、断食をするにしてもほどほどに抑えた方が良いそうです。

オートファジーを活性化させる食べ物

「これから、オートファジーの活性化を目的とした薬の開発が急ピッチで進むだろう」と筆者は見ていますが、薬の実用化は10年以上かかることが珍しくありませんし、薬には副作用の問題もあります。

そこで注目されるのが、オートファジーの活性化を目的に日頃から摂取できるもの、つまり食べ物です。

筆者は以下のものを挙げています。

  • 発酵食品、豆類、キノコ類
  • サケ、エビ、イクラ
  • お茶
  • ブドウ、赤ワイン

これらを食べたり飲んだりすることで、なぜオートファジーが活性化するのでしょうか。それぞれ見ていきましょう。

発酵食品、豆類、キノコ類

納豆や味噌、醤油、チーズなどの発酵食品や豆類、シイタケなどのキノコ類には「スペルミジン」という成分が含まれており、これがオートファジーを活性化させるそうです。

細胞や動物を対象とした実験で確かめられており、心不全を予防したり寿命を延ばしたりした報告もあるといいます。

老化した人のB細胞にスペルミジンを投与したら、オートファジーが活発になり抗体をつくる量が増えた実験結果もあるそう。

スペルミジンは体内の細胞でも合成されており、アミノ酸からつくられますが、若い細胞であることが条件。

若い人は自分でスペルミジンをつくれますが、年を取ると合成量が激減することが人間でも調べられているといいます。

既出の情報を合わせると、人間は加齢によってルビコンが増え、スペルミジンがつくれなくなることで、「オートファジーががた落ちします」

サケ、エビ、イクラ

サケやエビ、イクラなどに含まれる赤色天然色素の「アスタキサンチン」もオートファジーを活性化させることがわかっているそうです。

お茶

お茶に含まれる「カテキン」も同様だといいます。

ブドウ、赤ワイン

ブドウや赤ワインに含まれるポリフェノール「レスベラトロール」も同様だそう。

ただし、上に挙げた食品のいずれも「どのくらいとれば良いか」ははっきりとわかっていないといいます。

オートファジーの働きを鈍くする食べ物

一方で、オートファジーの働きを悪くする食べ物もあるそうです。それは、「脂っこいもの」。

肉の脂身やフライなどを食べるとルビコンが増え、オートファジーが鈍化するといいます。

動物性・植物性に限らず油にはこうした作用がありますが、「油は細胞膜をつくるなど重要なものでもあるので、完全カットなど過激なことはしないように」と筆者。

運動でもオートファジー活性化

食べ物だけでなく、運動でもオートファジーの活性化が見込めるそう。

アメリカの研究グループがマウスを対象に行った実験では、トレッドミルで走らせた方は全く走らせなかった方に比べて「明らかにオートファジーの量が違いました」

この実験結果をレポートした論文には、「適度な運動はオートファジーを活性化して、糖尿病を抑える作用がある」と書かれていたといいます。

「人間でもおそらく効果が見込めるはず」

まとめ

  • オートファジーが活性化することで、病気・老化の予防、美容効果が見込める
  • 生活習慣によって活性化をめざせる
  • 腹八分で脂っこいものを避け、適度に運動することが大事

この本のオートファジーに関する記述をギュッと要約すると上の通りです。

筆者は最後にこう述べています。

「オートファジーを活性化させる方法って、意外に普通なんだな」との声が聞こえてきそうです。その通りです。

オートファジーを活性化するには、運動して和食を食べて、食べ過ぎない。そしてお酒が好きなら、赤ワインを楽しむ。

普通の食生活と適度な運動が大事だという結論になりましたが、背後にオートファジーが高まることを考えると、ちょっとやる気になりませんか?」

わたしはこの本を読み、現在も空腹時間を設けて1日2食までにし、筆者が挙げた食品を積極的に食べるようにしています。

こんな食生活を継続しているためかどうかはわかりませんが、調子は良いような気がします。

オートファジーとプチ断食の効果については下の本でも紹介されており、レビュー記事を書いています。この本では空腹時間を16時間に設定しているのがポイントです。

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興味のある人は参考にしてみてください。

医療ライターの庄部でした。

記事内の情報、考え、感情は書いた時点のものです。記事の更新情報はツイッター(@freemediwriter)でお知らせします。

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