医療本レビュー

【記者が要約】『スタンフォード式 最高の睡眠』眠りの質上げる方法

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「もっと寝たいのだけど仕事でなかなか難しい」「寝つきが悪くて睡眠時間が減ってしまう」「目覚めが悪くてすっきりしない…」

今回は、こんな悩みを持つ人に有益な情報を届けたいと思います。

「睡眠研究の総本山」とされるスタンフォード大学(米カリフォルニア州)で30年以上、睡眠について研究してきた同大医学部精神科教授の西野精治氏が書いた『スタンフォード式 最高の睡眠』を医療ライターのショウブ(@freemediwriter)が要約し、伝えます。

具体的には

  • 寝つきを良くする方法
  • 目覚めを良くする方法
  • 日中の覚醒を促す方法

などを紹介。

記事の後半にはこの本の要約を投稿したツイートを添付するので、睡眠への理解を深めたい人はそちらもご参考ください。

そもそも「良い睡眠」とは?

  • 量ではなく質
  • 質は眠り始めの90分で決まる
  • 最初が悪いと長く寝ても効果減

「最高の睡眠」とは何か。それは、「量ではなく質」と西野氏は断言します。

質の良い睡眠をとれば仕事や勉強のパフォーマンスが上がりますが、それを左右するのが「眠り始めの90分」であるそうです。

最初の90分さえ質が良ければ残りの睡眠の質も比例して良くなり、逆に最初の睡眠でつまずくと、「どれだけ長く寝ても自律神経は乱れ、日中の活動を支えるホルモンの分泌にも狂いが生じる」というのです。

眠り始めの90分が重要な理由

  • 成長ホルモンが最も多く分泌される
  • 自律神経が整う
  • 脳のコンディションが良くなる
  • 睡眠欲求の多くが解放される

なぜ、最初の90分が大事なのでしょうか。

その理由は上の4つであるそうです。1番目と2番目について説明します。

成長ホルモンが最も多く分泌される

西野氏によると、成長ホルモンの70〜80%は第1周期のノンレム睡眠時(※)に分泌されるといいます。

成長ホルモンは子どもの成長に関わるだけでなく、大人の細胞の増殖や正常な代謝を促進させる働きがあり、アンチエイジングにも効果があるそうです。

しかし、眠り始めのノンレム睡眠の質が悪かったり、この時間に眠りが外部から阻害されたりすると、正常に分泌されないといいます。

※ノンレム睡眠とレム睡眠

  • ノンレム睡眠→深い眠り
  • レム睡眠→浅い眠り

ノンレム睡眠は「脳も体も眠っている睡眠」、レム睡眠は「脳は起きていて体は眠っている睡眠」です。

この2つが明け方くらいまでに4、5回繰り返され、明け方になるとレム睡眠の出現時間が長くなるのが通常の睡眠パターンだそうです。

なお、寝ついた後すぐに訪れる90分間のノンレム睡眠が「睡眠全体の中で最も深い眠り」だといいます。

西野氏が「最初のノンレム睡眠をいかに深くするかが大事」と話す理由です。

自律神経が整う

入眠して眠りが深まっていくと、交感神経の活動が弱まり、副交感神経が優位になります。

交感神経と副交感神経を合わせて「自律神経」と言い、こうした自律神経の役割交代がスムーズに進むと、脳と体はリラックスし、しっかり休息をとれます。

頭痛やストレス、疲労感、イライラ、肩こり、冷え性など「なんとなく調子が悪い」といった違和感の根っこには、自律神経の乱れがあることが多いそうです。

自律神経については下の「休息」の部分でも解説しています。

睡眠の役割

  1. 休息
  2. 記憶の整理と定着
  3. ホルモン調整と免疫力アップ
  4. 脳の老廃物除去

ここで、改めて睡眠の役割を説明しておきますね。「休息」以外について知らない人も多いのではないでしょうか。

1、休息

ほとんどの人がうなずくであろう「休息」。

人間の体は、意思とは関係なく常に自律神経が働いています。

体温を維持し、心臓を動かし、呼吸し、消化し、ホルモンや代謝を調整しているのがこの自律神経です。

自律神経には活動モードの「交感神経」とリラックスモードの「副交感神経」があります。

日中は交感神経が、食後とノンレム睡眠中は副交感神経が優位になります。

どちらも大切ですが、常に活動モードを続ければ体と脳は疲労してストレスがたまります。

だからこそ、「最も深いノンレム睡眠が出現する眠り始めの90分でしっかりと副交感神経優位にし、脳と体を休ませることが大事」と西野氏は言います。

逆に、スムーズに副交感神経優位の状態にしないと、寝つきが悪くなり、眠りが浅くなるそうです。

2、記憶の整理と定着

睡眠には、「記憶の整理と定着」という役割もあるそうです。

レム睡眠中にエピソード記憶(いつどこで何をしたか)が定着される一方、眠り始めの90分に訪れる深いノンレム睡眠は、イヤな記憶を消去するといいます。

3、ホルモン調整と免疫力アップ

睡眠が不適切になると、ホルモンバランスが崩れ、免疫の働きもおかしくなり、風邪やインフルエンザ、がんなど免疫が関係する病気になる可能性が高まる」と西野氏は言います。

たとえばインフルエンザの予防接種でワクチンを取り入れても、睡眠が乱れていると免疫が確立せず、ワクチン接種の効果が認められないという報告もあるそうです。

また、リウマチなどの自己免疫疾患やアレルギーは天候などさまざまなものがトリガーとなるそうですが、これは免疫機構とも大きく関わるといいます。

「つまり、睡眠時の免疫増強がきちんと働いていないと、アレルギーが悪化する危険もある」

4、脳の老廃物除去

脳を覆う脳脊髄液は約150ccで、1日4回、600ccほど入れ替わっているそうです。このとき、脳の老廃物も一緒に除去されるエビデンスがあると西野氏は言います。

脳の老廃物は覚醒時にたまり、このとき同時に除り除かれてもいますが、「就寝時のまとまったメンテナンスが脳にも重要」。

適切な睡眠によって脳の老廃物がきちんと排出されないと、アルツハイマーなどの病気の引き金となる可能性があるそうです。

その根拠として、西野氏が挙げていたのがマウスを使った実験です。

アルツハイマーになりやすい遺伝子を持ったマウスの睡眠を制限すると、アルツハイマーの原因物質の一つ「アミロイドβ」がたまりやすくなったといいます。

人間においても、「睡眠障害とアルツハイマーのリスク」について似たデータが出ているそうです。

寝つきを良くする方法

さて、睡眠の役割と眠り始めの90分が重要な理由を知っていただいた上で、実践的な情報を伝えますね。

「寝つきを良くする方法」と「目覚めを良くする方法」、「日中の覚醒を促す(パフォーマンスを上げる)方法」について要約します。

寝つきを良くする方法は、西野氏が重視する「眠り始めの90分の睡眠の質を上げる方法」につながります。

この方法で重要なのは、

  • 就寝と起床の時間を固定する
  • 体温をコントロールし、上手に脳のスイッチを切る

この2つ。時間の固定が難しい場合、2つ目の「体温」と「脳」に着目することを西野氏は勧めています。

どういうことでしょう。まずは体温調整の方から説明します。

入眠に重要な体温コントロール

深部体温と皮膚温度の差を縮める

体温をコントロールするとはすなわち、入眠前に「深部体温」と「皮膚温度」の差を縮めておくことを意味します。

「深部体温と皮膚温度の変化を助けてやれば、入眠しやすくなる。これはヒトでの実験により実証されている」と西野氏は言います。

体温の基礎知識

  • 「深部体温」=体の内部の温度
  • 「皮膚温度」=手足の温度
  • 深部体温の方が皮膚温度より2℃高い

深部体温は「体の中の温度」を、皮膚温度は「手足の表面の温度」を意味します。

体温は「筋肉や内臓による熱産生」と、「手足からの熱放散」により調整されていることから、通常、起きているときは深部体温の方が皮膚温度より2℃ほど高いそうです。

なぜ温度差が重要なのか

寝つきを良くするにはこの温度差が重要であるといいます。

なぜでしょうか。

西野氏によると、深部体温は日中高くて夜間低いそう。皮膚温度はその逆で、昼に低くて夜間高いといいます。

人間は睡眠中、深部体温を下げて筋肉や臓器、脳を休ませる一方、覚醒時は深部体温を上げて体の活動を維持させるらしいのですね。

「健康な人の場合、入眠前には手足が温かくなる。皮膚温度が上がって熱を放散し、深部体温を下げているから」

通常、深部体温は皮膚温度より2℃ほど高いのですが、西野氏いわく入眠前には皮膚温度が上がる一方、深部体温が下がるため、温度差は2℃以下に縮まります

「つまり、スムーズな入眠に際しては深部体温と皮膚温度の差が縮まっていることが鍵」ということです。

「入眠時には深部体温を下げ、皮膚温度は上げて差を縮める。これが黄金の90分を手に入れる1つ目のスイッチの入れ方だ」

深部体温と皮膚温度の差の縮め方

では、どうすれば深部体温と皮膚温度の差を縮めることができるのでしょうか。

その方法を4つ紹介します。

1、就寝90分前までの入浴

西野氏によると、人間の体は筋肉や脂肪といった遮熱作用のある組織で覆われており、かつ自律神経の働きでホメオスタシス(恒常性)が保たれているので、「深部体温はそう簡単には変動しない」そうです。

しかし、入浴にはその深部体温をも動かす強力な作用があるといいます。

西野氏が行った実験では、40℃のお風呂に15分入ると深部体温がおよそ0.5℃上がりました

深部体温は上がった分だけ大きく下がろうとする性質があり、深部体温が元に戻るまでの所要時間は90分。入浴前より下がっていくのはそれからです。

つまり、「寝る90分前に入浴を済ませておけば、その後さらに深部体温が下がっていき、皮膚温度との差が縮まる。結果、スムーズに入眠にできる」といいます。

2、普通の入浴より温泉の方が効果的

なお、普通の入浴より温泉の方が効果的だそうです。

西野氏と秋田大学の共同研究で、温泉(炭酸泉、ナトリウム泉)と普通のお風呂の湯を40℃に設定して比較したところ、温泉浴の方が普通浴よりも深部体温が大きく上がり、熱放散後の深部体温も、温泉浴の方が普通浴より大きく下がったといいます。

さらに、睡眠第1周期のノンレム睡眠の振幅も大きくなりました。「つまり、温泉浴によって90分の黄金のノンレム睡眠が現れた」。

ただ、ナトリウム泉は入浴後の疲労感が強いそうです。

これは、発汗による水分ミネラルの流出や入浴前後の血流量変化などで湯疲れが起こってしまうため。

その点、炭酸泉は普通浴と同じように湯疲れがないといいます。

3、足湯も睡眠に良い

「足湯」もスムーズな入眠に効果的だといいます。

入眠に重要な要素である「熱放散」を主導しているのは、表面積が大きくて毛細血管が密集している手足なので、足湯で足の血行を良くして熱放散を促せば、入浴と同等の効果があるそうです。

「入浴に比べて体温の上昇は大きくないが、深部体温を下げるのに貢献してくれる」とのこと。

「寝る直前でもオーケーという点からも、足湯は多忙なビジネスパーソン向け」と西野氏は言います。

4、靴下は睡眠の質を下げる

スムーズな入眠を妨げる可能性があることも紹介しておきますね。

西野氏によると、「足が冷たくて眠れないから」といって、靴下を履いたまま眠るのはむしろ逆効果だといいます。

靴下を履いたまま寝てしまうと、足からの熱放散が妨げられてしまうためです。

足からの熱放散が妨げられると深部体温が下がりにくくなってしまうので、眠りの質の悪化にダイレクトにつながるそう。

ですから、①靴下を履いて足を温める→②靴下を脱いで熱放散を促す→③深部体温が下がる→④入眠――こういったプロセスを辿ると良いといいます。

また、電気毛布や湯たんぽを使うときも注意が必要で、ずっと温めていたら今度は熱がたまる「うつ熱」現象が発生し、熱放散が起きなくなるそうです。

「もし使うのであれば寝る前だけに。温まって血行が良くなったところで外して眠れば、熱放散が促進される」

脳を興奮させないことも重要

体温コントロールに続いて、寝つきを良くする上で着目したいのが「脳」です。

西野氏によると、「脳のスイッチを切る」すなわち「脳の興奮を鎮める」ことで、スムーズな入眠が実現しやすいそう。

これについてはイメージしやすい人も多いのではないでしょうか。

先述の通り寝つきを良くするためには深部体温の低下が必要であるわけですが、脳が興奮していると体温も下がりにくくなるといいます。

脳を興奮させやすい要素は下の通り。

  • 仕事のストレス
  • 肉体的な疲労
  • 運動
  • 食事
  • スマートフォン――など

睡眠の質を上げる「脳スイッチ」オフ

  • 寝る前は何も考えないこと
  • 寝る前は単調な状態(ルーティン)をつくること

寝る前は「何も考えないこと」が重要だそうです。

「そう言われても難しい」という人は、「角度を変えて、なるべく単調な状態(モノトナス)をつくること」を西野氏は勧めています。

寝る前の娯楽はなるべくリラックスできるものに。夢中になるミステリーよりも退屈な本にして、アクション映画や動画よりも落語にするなど」

自分に合ったルーティンをつくることも有効だといいます。

「いつも通りのベッドで、いつも通りの時間に、いつも通りのパジャマを着て、いつも通りの照明と室温で寝る。入眠前に音楽を聴くならいつも通り単調な曲」といった具合です。

「『退屈』は普段はあまり歓迎されないが、睡眠にとっては『良き友』。いつものパターンを好む脳の性質を利用すれば、睡眠のルーティンも役に立つ」

一方で、「スマートフォンは危険」と注意喚起しています。

「ゲームも検索もできるし、メールもチェックできてしまう。交感神経活動を上げるものは極力、排除しよう」

目覚めを良くする方法

「すっと眠れてすっと起きられる」

「良い睡眠」には、「良い目覚め」も不可欠ではないでしょうか。

そこで、西野氏が提唱する「目覚めを良くする方法」を6つ紹介します。

1、アラームを2つの時間でセットする

まず一つ目は、アラームのセット方法。

西野氏は「起きなくてはいけない時間」と、「その20分前」の2つでセットすることを提案します。

朝方であれば20分前後で「ノンレム→レム」の切り替えが行われているため、浅い眠りのレム睡眠時に起きることを狙う作戦だといいます。

ポイントは、1回目のアラームの際に「ごく微音で短くセット」すること。

レム睡眠時は小さい物音でも目覚めやすいためで、かりにこのときに起きられなくても、それは「ノンレム睡眠で深い眠りの真っ最中」を意味するのでOK。

このときに音が大きいとノンレム睡眠で起きてしまい、目覚めの悪さにつながります。2回目ではレム睡眠に切り替わっているので、「起きられるはずだ」という考え方です。

「この方法であれば、レム睡眠のときに起きられる可能性が条件により多少変わるが、約1.5倍になる」と西野氏は言います。

2、朝の光を浴びる

続いて、「朝の光を浴びる」こと。

これはシンプルですが、効果はとても大きいそうです。

太陽の光は睡眠を推進させるホルモン「メラトニン」の分泌を日中抑えてくれるため、「覚醒に有効」だといいます。

メラトニンの分泌を抑えるには必ずしも太陽の光である必要はなく、470ナノメーターの波長の光であればよいそうですが、「ここはまだ研究の段階。実生活で使うにはまだ時間がかかるので、一番身近な太陽の光をふんだんに利用しよう」と西野氏。

目の網膜にある「メラノプシン」という受容体がこの波長の光を感知すると、メラトニンの分泌が抑えられるといいます。

なお、太陽を直接見なくても、日の光に当たるだけで効果が得られるとのこと。

3、起床後はあえて裸足で歩く

裸足で床にじかに触れることも有効だそうです。

皮膚感覚を刺激すると、脳幹部の中心にある「上行性網様体」が活性化され、覚醒が促されるといいます。

また、裸足で皮膚温度を下げると、深部体温との差が広がります。「深部体温と皮膚温度の差が縮まると眠くなる性質を逆手に取るのだ」

4、手を冷たい水で洗う

深部体温と皮膚温度の差を広げる方法としては、手を冷たい水で洗うことも挙げられます。

朝は深部体温が上がっているため、手を水につけることで、「深部体温と皮膚温度の差をさらに広げるのが狙い」とのこと。

5、朝食をよく噛んで食べる

西野氏によれば、マウスを使った実験で、噛むことが睡眠・行動パターンに影響することがわかったといいます。

固形食を噛んで食べたマウスは、同パターンに昼夜のメリハリがありましたが、粉のエサを噛まずに食べたマウスはメリハリがなくなったそう。

活動期の睡眠量が通常のマウスよりも多くなり、覚醒すべき時間に活発に活動しなくなったというのです。

噛むことで三叉神経から脳に刺激が伝わる。よく噛むことは、一日のメリハリをつけるのに役立つ」と西野氏。

6、汗だくは避ける

運動で体温が上がるのは、「活動モードに切り替わるという意味ではいい」そうですが、体温は上がりすぎると発汗による熱放散が起きて元の体温より下がります

これは眠気がやってくるサインであり、朝風呂に入ったときと同じ状況になるそう。

朝に運動するとすれば早足のウォーキングの方がお勧めだといいます。「少なくとも、汗だくになるような運動だけは避けておこう」

覚醒を促す方法

睡眠の専門家が話す寝つきと目覚めを良くする方法を伝えてきました。

最後に、日中の覚醒度と仕事のパフォーマンスを上げる方法を3つご紹介します。3番目は覚醒度を上げ過ぎることの悪影響に触れています。

1、コーヒーを飲んで、人と話す

コーヒーに含まれるカフェインは基礎代謝を上げ、「覚醒モードに体を切り替える力がある」と西野氏は言います。

眠気や疲れ、覚醒時間に応じて蓄積する睡眠圧にも対抗するので、昼食後や午後にも効果を発揮してくれるそう。

さらに、コーヒーを飲みながら人と話すと「会話」という感覚刺激が加わり効果が高まるといいます。

一方で、飲む時間帯には注意が必要だそうです。

血中のカフェイン濃度は半分になるまで約4時間かかるため、就寝3時間前と1時間前にコーヒーを1杯ずつ飲むと、10分ほど寝つくまでの時間が長くなり、30分ほど睡眠時間が短くなるという報告があるというのです。

「コーヒーをたくさん飲んでしまう人は、夕方からはカフェインが入っていないデカフェに切り替えるのも手だろう」

なお、適量(1日5杯まで)のコーヒー摂取は体にもいいとされており、2型糖尿病、肝臓がん、子宮内膜がんのリスクを減らすエビデンスも報告されているそうです。

2、頭を使う仕事は午前中に行う

西野氏の場合、「午後は徐々にイージーモードの仕事にシフトする」といいます。

これは、眠りに向けて、脳を少しずつリラックスさせていくため。

寝つきを良くするためには脳を興奮させないことが重要とのことですから、西野氏はそのために先手先手で対策を打っているようです。

3、夕食は食べる

夕食を食べないと、覚醒して眠れなくなる可能性が高くなるほか、食欲の増大や自律神経の乱れをもたらすそうです。

絶食すると脳の視床下部から放出される覚醒物質「オレキシン」の分泌が促進されるためであり、逆に食事をすればオレキシンの活動は低下し、覚醒度も落ち着くことがわかっているといいます。

『最高の睡眠』要約ツイート一覧

この記事はツイッターに投稿した要約をまとめたものですが、「本題には入らなかったもののの、人によっては面白く感じるであろう情報」もツイート文を添付する形で載せておきますね。

以下のことに関心のある人は読んでみてください。医療ライターの庄部でした。

睡眠に関する基礎知識

  • スタンフォード大学の睡眠研究
  • 日本の「睡眠偏差値」の低さ
  • 最も死亡率の低い睡眠時間
  • なぜ「寝なくて大丈夫な人」がいるのか
  • 睡眠不足の悪影響
  • 睡眠時無呼吸症候群の怖さ
  • 睡眠周期とは
  • 仮眠の効果

知っておくと面白い、役に立つ情報

  • 睡眠に良いとされる食べ物
  • 午後の眠気の原因「ランチではない」
  • 寝つきを良くする酒の飲み方
  • 午後の眠気を防ぐ方法
  • 眠りの質を確かめる方法
  • 徹夜を避ける睡眠法
  • ブルーライトは睡眠に悪い?
  • 寝る直前は眠りにくい

睡眠研究「総本山」のスタンフォード大

睡眠を語る上でなぜ「スタンフォード」に価値があるか。

「世界の睡眠研究はスタンフォードから始まった。いまだに総本山はスタンフォード」

筆者がこう話す理由↓

  • 睡眠医学はまだ歴史の浅い分野。いち早く同学問に注目したのがスタンフォード大学(米カリフォルニア州)。
  • 1963年、世界初の本格的な睡眠研究機関「スタンフォード睡眠研究所」が設立される。
  • 1989年、同大が初めて睡眠医学の教科書を作る(筆者も一部執筆)。
  • 世界で活躍する睡眠研究者のほとんどは、短期・長期に同大に籍を置いた経験がある。
  • 筆者は同大で30年以上にわたり睡眠を研究。レム睡眠発見者の一人であり、同研究所の当初メンバーであるウィリアム・C・デメント教授は筆者の師でもあるという。

■世界一「睡眠偏差値」が低い国・日本

100万人規模の統計によると、各国の平均睡眠時間は下の通り。

  • 日本ー6.5時間
  • アメリカー7.5時間
  • フランスー8.7時間

日本人の中には睡眠時間が6時間未満の人が約40%もいると言われており、中でも東京都民の平日の睡眠時間は短く、ある調査では5.59時間。「世界の都市と比べてダントツに少ない」

ミシガン大学が2016年に行ったインターネット調査では、100国中、日本の睡眠時間は最下位だったという。

最も死亡率の低い睡眠時間

A.7時間

米サンディエゴ大と米国がん協会が2002年、アメリカ人約100万人を調査したところ、平均睡眠時間は7.5時間だった。

6年後、同じ人たちを追跡調査したところ、死亡率が最も低かったのは平均値に近い7時間ほど眠っている人たち

彼らを基準とすると、それより睡眠時間が短い人も、逆に長い人も「6年後の死亡率が1.3倍高い」結果が出ているという。

なぜ「寝なくて大丈夫な人」がいるのか

A.「時計遺伝子」の変異

筆者はショートスリーパーの研究として、何十年間も睡眠時間が6時間未満なのに健康なアメリカ人親子を調査。

結果、親子には生体リズムに関係する「時計遺伝子」に変異があることがわかった。

この親子と同じ時計遺伝子を持つマウスを作り睡眠パターンを観察すると、やはり睡眠時間が短かった。

筆者は「短時間睡眠は遺伝である」と結論を出し、2009年に学術誌に発表。

「しかし、ほとんどの人は短眠の遺伝子を持っていない。短時間睡眠が続くとつらい人はおそらくショートスリーパーではないため、これを目指すのは間違い。デメリットが大きすぎる」

睡眠負債の悪影響「マイクロスリープ」

眠りの研究者は「睡眠不足」でなく、「睡眠負債」と表現するという。

「睡眠時間が足りないことによって、簡単には解決しないマイナス要因が積み重なっていく」ことが理由。

睡眠負債の悪影響には「マイクロスリープ(瞬間的居眠り)」が挙げられる。

米学会誌に発表された研究。夜勤がある診療科と夜勤がない診療科の医師20人を対象に、翌日の覚醒状況を調査。

タブレットの画面に丸い図形が約90回ランダムに出現する画像を5分間見て、図形が押すたびにボタンを押すもの。

夜勤のない医師の反応は正常だったが、夜勤明けの医師は3、4回、数秒間にわたって図形に反応しなかった。この間、医師は「眠っていた」。

この状態を「マイクロスリープ(瞬間的居眠り)」という。10秒程度までの居眠りを指し、脳波で確認できる。脳を守るための防御反応とも言われる。

「もし、運転中にマイクロスリープが起きたら?」と筆者は問う。

短時間睡眠の悪影響

以下のリスクアップ

  1. 太る
  2. 糖尿病、高血圧症
  3. うつ病、不安障害
  4. アルコール依存、薬物依存
  5. 認知症

なぜか?

太る

眠らないと、食べすぎを抑えるホルモン「レプチン」が出なくなる一方、食欲を増長させるホルモン「グレリン」が分泌されるため。

糖尿病

眠らないと、「インスリン」の分泌が悪くなって血糖値が上がりやすくなるため。

高血圧症

眠らないと、交感神経の緊張が続くため。

うつ病、不安障害、アルコール依存、薬物依存

眠らないと、精神が不安定になりやすくなるため。

認知症

SCNラボでの実験では、睡眠を制限したマウスはアルツハイマー型認知症にかかりやすかった。別の実験で、人についても睡眠負債や睡眠の質低下により「認知症にかかりやすくなる可能性がある」と報告されている。

国立精神・神経医療研究センターらのグループは「1日1時間以上の昼寝は認知症リスクを高める」、東京大学のグループは「1日1時間以上の昼寝は糖尿病リスクを高める」。

筆者「眠らなくても(昼に)眠りすぎてもよくないことがおわかりいただけるだろう」

睡眠時無呼吸症候群の怖さ

以下のリスクが高まる。

  • 日中のマイクロスリープ
  • 生活習慣病、心筋梗塞、脳梗塞
  • 自律神経、ホルモン、免疫の異常

重症の場合、放置すれば約4割の人が8年以内に死亡する

欧米人の場合、肥満している人に起こりやすい特徴があるが、日本人は顔が平たく気道がもともと狭いため、痩せていてもこの病気になる可能性があるという。

症状はいびき。睡眠時無呼吸症候群の場合、1時間に15回以上も呼吸が止まり、中には60回近く止まる人もいるという。

カナダのある調査で、「睡眠時無呼吸症候群の人は、診断され治療がなされれば、個人の年間医療費総額が半分に減る」と指摘されたそう。

治療はマウスピースやCPAPという器具の装着。「比較的簡単に改善するので、心配な人はぜひ診察を受けてほしい」

睡眠周期とは

ノンレム睡眠とレム睡眠で構成される睡眠周期。

1周期の時間は個人差があり、およそ90〜120分と幅があるという。

「睡眠時間は120分の倍数が良い」とする研究者もいるとのこと。

巷で言われている『90の倍数の時間眠る』ことにはそこまでとらわれる必要はないと、私は考えている」

短時間の仮眠は健康に良く、ミスも減る

グーグルやナイキなどでは勤務時間中の昼寝を推奨しているが、パワーナップ(短い仮眠)の効果は実験データでも表れており、作業ミスが減ることがわかっているという。

ただし、長時間の昼寝は健康には悪い。

2000年、国立精神・神経医療研究センターが337人の高齢アルツハイマー患者とその配偶者260人を調べたところ、30分未満の昼寝をする人は昼寝をしない人に比べ、認知症の発症率が約7分の1も低かった

また、30分から1時間程度の昼寝をする人もしない人に比べて発症率が半分に。

しかし、1時間以上昼寝する人は発症率が2倍も高かったそう。

眠りに良いとされる食べ物

「ぐっすり眠るために、深部体温を冷やす食品を夕食に取り入れるのも一案だ」

  • 冷やしトマト
  • きゅうりジュース…南国で体温を下げるために飲まれているそうだが、筆者は「試したことがない」。

ほかにも、何百年も用いられてきたものとして

  • 東洋…漢方薬
  • ヨーロッパ…カノコソウやカモミールなどのハーブ

が挙げられるという。

「効果は検証されていない部分もあるが、全く効果がないものは淘汰されていくから、『ずっと飲まれている』という事実が、ある程度の効果を示す一つの証拠だと思う」

一方で、「急に脚光を浴びる『科学的根拠のある食品』は、検証されていないものも多い」と筆者。

例:魚、肉、大豆食品

眠りを促し体内リズムを整えるメラトニンは、元を辿ればトリプトファンからつくられるという。

トリプトファン→セロトニン→メラトニンとなるので、「トリプトファンを多く含む魚や肉、大豆食品を食べるとよく眠れる」などと言われる。

「しかし、食べ物の使い道を自分の意思で選ぶことはできない」

自分としては眠るために食べた大豆食品が筋肉増強に使われてしまうことがあるし、美肌のために飲んだコラーゲンサプリが臓器の修復に使われることもあるそう。

大事なのはやはり、「バランス良く食べること」。

午後の眠気は「ランチのせいではない」

スタンフォード大の研究で、「昼食は午後2時ごろに起きる眠気の襲来には関係ない」実験結果が出ているという。

筆者の見解↓

「食事を取ると、消化のために腸に行く血流が増えて、脳に行く血流は減る」といわれるが、どんな状況でも脳血流は第一に確保されるそう。「なので、ランチ後の眠気は血流の問題ではない」

筆者の見解は「満腹感によって意欲が低下し、何もする気が起きず、眠気を感じる」というもの。「厳密にいえば、眠気とは違う倦怠感といったものだろうか」

少量の酒は寝つきを良くする

「酒は少量であれば寝つきを良くし、睡眠の質を下げない」

多量飲酒のリスクとメリットを生かす飲み方↓

酒は脳内物質「ギャバ」に影響を与え、睡眠薬「バルビツレート」とよく似た働きを示すという。

ギャバは抑制系の神経伝達物質のアミノ酸。睡眠薬などでギャバを外部から強めてやれば、睡眠導入効果や睡眠維持効果が期待できるそう。

ただし、ギャバには抗不安や抗痙攣、筋弛緩などの作用もあるため、睡眠薬の副作用としては意識混濁や脱力・ふらつきによる転倒・骨折が問題。

酒も同じでたくさん飲むと呼吸抑制などの作用が出てくるため、「睡眠薬と同じくらい強く、使いようによっては危険性があると認識してほしい」。

睡眠においてはレム睡眠の阻害、深いノンレム睡眠の減少、利尿効果での覚醒などが挙げられる。

睡眠でのメリットを生かす量は日本酒換算で1〜1.5合とのこと。

1合程度であれば、寝る100分前に飲むと寝つきが良くなり、翌日のコンディションも妨げないと報告されている

「お酒を単独で一口飲むくらいなら、寝る直前でもいい。ギャバへの働きは短時間で出現する」

午後の眠気対策

昼食を軽めにする

対策として筆者が心がけているのが、軽食にとどめること。

「重い食事をとると血糖値に影響が出て、極端な場合はオレキシンなどの覚醒物質の活動を抑えてしまう可能性がある」。

他方、空腹時にはオレキシンの分泌が増え、覚醒度が上がるという。

覚醒ニューロンを利用する

  • ガムを噛む
  • コーヒーを飲む
  • 温かいものを飲む

「複数ある覚醒ニューロンをとことん利用しよう」

覚醒を司るニューロン(神経細胞)には、ノルアドレナリン、セロトニン、ヒスタミン、オレキシンがあり、中でもオレキシンは親玉的存在。ほかの覚醒系物質を支配しているという。

ガムを噛むことで脳を活性化させる、覚醒作用のあるカフェインが含まれるコーヒーを飲む(カフェインは緑茶や紅茶にも含まれており、特に抹茶の含有量は高い)、温かいものを飲んで体温を少し上げる…などの方法が有効であるそう。

眠りの質を確かめる方法

「睡眠ポリグラフ検査」

  • 脳波や筋電図、眼球運動、心電図などを測定。30秒ごとに眠りのステージを各4段階で判定する。
  • 睡眠時無呼吸症候群の診断に使われる。

こんなふうに方法はあるものの、検査ができる施設は限られており、また拘束時間が長く、検査費用も高い。

「検査のためとはいえ、体中にコードを張り巡らされればよけいに眠りづらく、普段の睡眠状態は反映されにくい

結局のところ、「眠い」「もっと寝たい」という感情や翌日のパフォーマンスなど自覚症状の点検が「精度の良い検査方法」という。

「日中コンディションが良く集中力が続いているなら、睡眠がしっかり仕事を果たしていることの内なる報告」

徹夜を避ける睡眠法

深夜も仕事しないといけない。でも眠い。そんなときの筆者の作戦。

「眠気があるならまず寝てしまい、黄金の90分が終了した最初のレム睡眠のタイミングに起きる」

「明け方に深い眠りをとるのは地球に逆らうやり方」

最初のレム睡眠も入れてわずか100分ほどしか寝ていないとはいえ、深く眠れていれば質は確保されるという。

最初にレム睡眠がやってくるタイミングは人によって多少違うので、「アラームをセットするならば90分後と100分後の2つをお勧めする」。

一方、仕事を終えて明け方に眠ろうとするのは避けた方がいいそう。

集中していた脳は興奮して眠りづらくなるし、サーカディアンリズムの働きで朝が近づくにつれて体は起きる準備を始めるので、「明け方に深い眠りをとる」のは地球に逆らうやり方とのこと。

ブルーライトは睡眠に悪い?

「スマホやパソコンの画面から放たれるブルーライトは睡眠に悪いといわれているが、ブルーライトの影響を睡眠に及ぼそうとすれば、かなり画面に顔を近づけてジッと見続ける、ぐらいのことをしないといけない

「スマホやパソコンが睡眠に影響を与えるのは、ブルーライトというよりも、操作で脳を刺激してしまうことにあるといえる」

寝る直前は眠りにくい

イスラエルの睡眠研究家ペレッツ・レビー氏が行った実験で、通常就寝する時間の直前から2時間前あたりまでが最も眠りにくいことがわかったという。

「毎日必ず午前0時に眠る人は、22時からの2時間は一番眠りにくいことになる。

なぜこういった現象が起こるのかはまだ解明されていないが、現象は他の研究者も確認している。

入眠の直前には脳が眠りを拒否する『睡眠禁止ゾーン』があるのだ」

これらのことから

  • 早めに寝たいときでも、いつも通り寝て睡眠時間を1時間削る方が、すんなり眠れて質が確保できる可能性が高いという。
  • 「後ろにずらすのは簡単、前にずらすのは困難」が睡眠の性格。
  • 「それでも」という場合、いつもより1時間早くお風呂に入って、ストレッチなど軽い運動を組み合わせて体温を作為的に上げることを「お勧めする」。

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