医療界で注目されている「AI問診」。患者の症状などをもとにAIが病気の候補を教えてくれるみたいだけど、実際、患者としては使えるサービスなの?
今回はこんな関心や疑問を持つ人に向けて、医療ライターのショウブ(@freemediwriter)が「AI受診相談ユビ―」を利用した感想をレポートします。医師にも使用感を聞いたので参考にしてみてください。
医師との考えの共通点は下の通りです。
診断に限ると現時点での有効性は高くないと思うが、将来的な可能性を感じる
そもそも、「AI問診は医療機関の負担を減らすために開発されたシステム」であることを頭に入れておくと良さそうです。
キャプチャー画像を添付しながらユビ―利用の流れを紹介していきます。
AI問診とは
AI問診とは文字通り、AI(人工知能)が医師の代わりに問診してくれるシステム。
辞書サイト「知恵蔵mini」によると、「紙の問診票の代わりにAIを使って行う問診システム」であり、「患者がタブレット端末に記入した事項を、AIが医学用語に変換してカルテに反映する」とあります。
AI問診のメリット
同サイトによると、メリットとしては下のことが挙げられるそうです。
- カルテ入力の手間が減る
- 的確で効率的な問診をしやすい
- お薬手帳や他院からの紹介状を読み取って文字情報を抽出する機能を備えるものもあり、カルテ作成がさらに簡単になる
医療機関の診療効率が上がると、待ち時間の減少なども見込めるかもしれませんね。
また、もし本当に「的確で効率的な問診」がなされるのであれば患者としてもうれしいことです。
ユビ―とは
2021年におけるAI問診システムの代表格が「ユビ―」です。
これは、医師とエンジニアらによって2017年に創業された「Ubie(ユビ―)」(東京都中央区)が開発・提供しているもの。
同社サイトによると、サービスは2つあり、1つは2018年に提供開始された医療機関向けの「AI問診ユビ―」。もう一方が2020年にリリースされた一般向けの「AI受診相談ユビ―」です。
AI問診ユビ―のシステムは約5万本の医学論文から抽出されたデータをもとに作られているそうで、これを一般向けに応用したものがAI受診相談ユビ―だといいます。
AI問診ユビ―は2021年2月現在、全国で300以上の施設が導入しているそうです。
わたしが今回利用したのは後者です。
ユビ―利用の流れ
さて、「AI受診相談ユビ―」の利用方法に移りましょう。方法は簡単です。
スマートフォンやパソコンなどでサイトに入り、「さっそく回答をはじめる」をタップまたはクリックして、画面に表示される質問に答えていくだけ。
システムが利用者の回答情報に合わせ、必要だと考える質問を約3500種の候補から選択、順次表示していくといいます。
質問数は20ほどで、所要時間は数分とのことです。
医療ライター庄部が利用してみた
利用してみました。
ユビ―に伝えたかった症状
わたしがユビ―に相談したかったのは、喉にある違和感。1年以上前から以下の症状が気になっていました。
- 夕食後に喉が詰まる感じがする
- 痰を出そうとしても、出るのは透明の粘液。
- 痰を出す要領で粘液を出し、飲み込むと落ち着く
- 症状が現れるのは食後30分間ほど。それ以外は出ない
- 朝食や昼食の後には起こらない
ネットで調べたところ、「食後に起こる喉の違和感」の原因の代表としては、「逆流性食道炎」が挙げられるといいます。
2年ほど前に胃の内視鏡検査を受けたとき(詳細は下リンク)、「まだ気にするほどではないけど、逆流性食道炎の兆候が少しある」と医師に言われたので、わたしもこの病気ではないかと考えました。
それでかかりつけ医に相談したところ、「逆流性食道炎の可能性があるので、まずは胃酸の分泌を抑える薬を飲んでみましょうか」と提案され、現在、服用しているところです。
ユビ―利用の流れ
ユビ―はどんなアドバイスをくれるのでしょうか。わたしはスマートフォンで利用。キャプチャー画像とともに紹介します。
「さっそく回答を始める」をタップ。登録不要ですぐに使えるのは便利ですね。
「年齢」「性別」「既に医療機関を受診しているかどうか」などを聞かれた後、症状の質問に移りました。
回答は選択式で、該当するものをタップするとすぐに次の質問に移ります。入力を誤った場合などは前の質問に戻って回答し直すこともできます。
わたしは既に医療機関を受診していますが、今回はそれを抜きにした回答を知りたいので、「いいえ」を選びました。
症状を入力する際のポイントはAIが判断しやすいよう、「短い言葉で」。
「喉に違和感がある」と入力すると、複数の候補が表示されました。
わたしの場合、喉に違和感が起こるのは慢性的ではなく、「食後(夕食後)」に限定されます。わたしは「いつ起こるか」がポイントだと考えており、またかかりつけ医もそう話していたので、次に「食後」と入力してみました。
しかし、「食後」に反応する候補は「お腹が苦しい」「お腹が張る」「わざと吐いてしまう」の3つのみ。
情報を増やし、「食後に痰が絡む」と入力しましたが、近い症状は表示されません。
仕方ないので、「喉に違和感がある」と「痰が絡む」の2つを選択。「特に気になる症状」を聞かれたので「喉に違和感がある」を選びました。
ここから、「喉に違和感がある」に関連して下のように質問は続きました。
- 他にこんな症状はあるか(体温が普段より高い、鼻水が出る、せきが出る、息苦しさを感じる、食べ物が飲み込みにくい、声がかすれる、など)
- 症状が現れたのはどのくらい前からか
- これまでに同じような症状を経験したことはあるか
- 症状について、最もつらかったときを1~10で表すとどれくらいの痛みか
- 症状の始まりから今までの変化として、一番近いのはどれか
次に、「痰が絡む」に関する質問に移りました。聞かれた内容は下の通りです。
- 症状が現れたのはどのくらい前からか
- 胸やけがするか
- 日常的にげっぷがよく出るか
- 現在、はな声か
- ノリの佃煮もしくは墨のような黒い便が出ているか
- これまでに逆流性食道炎と医師に言われたことがあるか(今回は受診していない前提で回答しているので、これには『いいえ』を選択しました。実際の診療でも『その可能性がある』と言われただけですから、いずれにしても『はい』ではないと思います)
- 頭痛があるか
- 精神的なストレスや肉体的な疲労を感じているか
- これまでに副鼻腔炎と医師に言われたことがあるか
- 普段から肉や脂の多い欧米的な食習慣か
- お腹の痛みがあるか
- 横になったときに鼻水がのどに垂れ込むか
- 痛みはキリキリとうずくようなもので、繰り返すか
- 鼻が詰まっているか
- ゼーゼー・ヒューヒューするような呼吸音があるか
- 胃カメラで異常を指摘されたことがあるか
- 黄色または緑色の痰が出るか
- これまでに花粉、猫などの動物、カビ、ホコリ、草木や稲などに接したときに、鼻・喉・せき症状が出たことがあるか
- これまでに花粉、猫などの動物、カビ、ホコリ、草木や稲などに接したときに、目のかゆみが出たことがあるか
- これまでにアレルギー性結膜炎と医師に言われたことがあるか
- 両親や兄弟、子どもに、ぜんそく、アトピー、アレルギー性鼻炎・結膜炎のいずれかをかかっている人がいるか
- これまでに花粉症と医師に言われたことがあるか
- 次のような症状はあるか(夜間にせきがひどくなる、夜中や朝起きたときに症状が出る、風邪や胃腸の症状が最近あった後で現在の症状が出てきたなど)
後半の質問は多かったですね。
この後に下のことが聞かれました。
- 病院を選ぶときに重視することは何か(家から近い、駅から近い、電話予約ができる、ネット予約ができる)
- あなたが伝えたい症状は伝えられたか
質問の答えがわからなかったり覚えていなかったりする場合は質問を飛ばすことができ、また質問が長すぎる場合は途中で終了することもできます。
終わりました。
画像を撮影しながらだったので詳しい時間はわかりませんが、テンポよく選んだ場合は5~10分ほどで終わりそうです。
さて、ユビ―の結論は? 「疑われる病気」「病院に行くべきか」「おすすめの病院」を教えてくれるそうですがいかに。
AIが「主に疑われる病気」としたのは、「アレルギー性鼻炎・結膜炎」。「可能性は高くないが疑いがある」としたのが「胃食道逆流症」と「せき喘息」、「副鼻腔炎」。
胃食道逆流症の意味は下の通りです。
胃酸を含む胃の内容物が食道に逆流する病気。胸やけ・呑酸などの自覚症状がある。
食道の粘膜に炎症が生じる逆流性食道炎と、炎症はなく自覚症状のみの非びらん性胃食道逆流症がある。GERD(Gastroesophageal reflux disease)。――デジタル大辞泉
胃食道逆流症以外の可能性は低いと思いますがどうでしょう。主治医もこれらの病気の可能性は指摘していませんでした。
ユビ―を利用した感想
- 症状によっては判断能力が低くなる
- しかし、一般向けもないよりはあった方がいいサービス
わたしが一般向けの「AI受診相談ユビ―」を使って感じたことは上の通りです。
わたしの場合は症状が現れるタイミングが重要だと思い、医師も「食後」という点に着目して「逆流性食道炎の可能性があるかも」と考えたようですが、ユビ―では症状が現れるタイミングを入力しても該当する候補が表示されなかったため、あまり検討してくれなかったようです。
むしろ、「アレルギー性鼻炎・結膜炎」というちょっと的外れだと思う情報を提示されました。
私は季節性アレルギー鼻炎の花粉症を抱えていますが、それは既にわかっており、今回訴えたかったこととは違うのですよね。
一方で、一般向けのAI問診も「ないよりはあった方がいいかな」とは思いました。
症状によっては効果的な問診が行われる可能性はあるかもしれませんし、「すぐに受診した方がいいか」など緊急度を提案してくれることは参考になり得るでしょう。
加えて、症状に応じて医療機関を複数提示してくれるので、自分でゼロから探すのに比べて医療機関選びが効率化される可能性もあります。
ユビ―利用時の留意点
AI受診相談ユビ―は診断をするものでも、医療的なアドバイスをするものでもない
一般の人がユビ―を利用する上で留意した方がいいであろうことを書きました。
「AI問診」と聞くと「AIが病気を診断してくれるもの」と想像しやすいのですが、現状はそんな機能を担保するものではないそうです。
上の画像に書かれてある通り、企業側は「医師による診断行為でも医療従事者による医療的なアドバイスの代替でもありません」とし、「ユーザーが罹っている可能性がある病気に対して、早期から対策できることを目的としています」としています。
「医療受診までの過程を手助けするもの」くらいの認識でいた方が良さそうですね。
今のところ、かかりつけ医のいない人が何らかの症状を抱えたときに「医療機関を受診した方がいいか」「行くとすればどこが良さそうか」といった疑問にヒントを与えてくれるツールと捉えるといいのではないでしょうか。
診断能力は症状に応じてばらつきがありそうです。
ユビ―を利用した医師のコメント
医療機関向けの「AI問診ユビ―」を利用した医師(開業医)も「診断」に限った意見はわたしと同様で、精度は高くないと感じたようです。
以下、医師のコメントです。
診断の精度はまだまだ低くて、本当に笑っちゃうような結果が出たこともある。
でも5年後、10年後はわからないよね。精度が高まれば「医者いらずの世界」がリアルになってくるかもしれない
わたしもAI問診の精度向上には期待しています。
いま現在でも医療機関の負担軽減や運営効率の向上に寄与しているかもしれません。そもそもそれらが開発の目的だったようですが、診断だけを切り取ってもさらに有用性が上がるといいですよね。
数年前は珍しかったオンライン診療がコロナ禍もあって普及しつつあるように、AI問診がここ数年で浸透することも夢物語ではないでしょう。どんな変化があるか楽しみです。
医療ライター庄部が生活者から見たAI問診の現状についてレポートしました。
記事内の情報、考え、感情は書いた時点のものです。
記事の更新情報はツイッター(@freemediwriter)でお知らせします。
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