「正直、胃がんと大腸がんで死ぬのはもったいない」
胃がんはピロリ菌を除菌することで予防でき、大腸がんは内視鏡検査を定期的に受けることで予防と早期発見ができるそうです。
お腹の病気が専門の消化器内科医は取材の場で口々にそう話しますし、中には冒頭のように話す医師もいます。
今回は、「大腸がん」で死なないために必要な内視鏡検査を医療ライターのショウブ(@freemediwriter)が体験し、その詳細をレポートします。
検査費用は6千円ほど。さほど高くない費用で死なずに済む可能性を上げられるのであれば、やってみたくありませんか?
この検査を経験したことのない人はぜひ読んでみてください。
本記事は2部構成で、前半に大腸がんと大腸内視鏡検査に関して知っておいてほしいことを伝え、後半に検査の模様をレポートします。
文章が7500字ほどと多いので、予備知識のある人は目次をクリックして興味のある部分から読むといいかも(もちろん、全部読んでほしいですし、読む価値のある情報を書こうと思います)。
前半の記事構成
- そもそも日本人は大腸がんでどれくらい死んでいるか
- 検査を受けた方がいい年齢の目安
- 検査でなぜがんを予防できるか
- 検便と比べてどちらの方が効果が高いか
後半の記事構成
- 医療ライターが勧めたいクリニック
- なぜ34歳のわたしが検査を受けたのか
- 事前準備の流れ
- 当日の流れと痛みの有無
- 検査の結果
- 検査でポリープを見逃す可能性
目次
日本人は大腸がんでどれくらい死んでいるか
大腸がんは現在、日本人がかかりやすく、また死にやすいがんです。
厚生労働省の発表によると、2016年における患者数は全てのがんの中で最も多く、約15万8千人。男性がかかったがんの中では3番目、女性がかかったがんの中では2番目に多かったという結果が出ています。
また、国立がん研究センターの発表によると、2017年にがんで亡くなった人のうち、大腸がんが原因だったケースは2番目に多く、約5万1千人(トップは肺がん)。がんで亡くなった男性の中では3番目、がんで亡くなった女性の中では最も多かったという結果が出ています。
検査を受けた方がいい目安は「40歳以上」
こんなふうに、「日本人の2人に1人がなる」と言われるがんの中でも大腸がんはかかる可能性が高いわけですが、内視鏡検査を定期的に受けることで予防と早期発見が可能であるそう。
受ける年齢の目安は罹患リスクが上がる40歳以上で、40歳を超えたら医師と相談しながら数年おきに受けた方がいいといいます。
大腸内視鏡検査は、カメラが内蔵された細い管(内視鏡)を肛門から入れて大腸の中を観察していくもので、検査を通して見つけられる病気としては、大腸がんやポリープ(粘膜にできるこぶ状に盛り上がったもの)、炎症を引き起こす原因不明の病気(潰瘍性大腸炎、クローン病)が挙げられます。
「大腸内視鏡検査を受けることでがんを早く見つけられる」
これに関してはイメージしやすいと思いますが、では、「大腸内視鏡検査を受けることでがんを予防できる」についてはどうでしょう。
検査なのになぜ? と思う人がいるかもしれませんよね。
理由は、検査中に小さなポリープ(目安は1㎝未満)があれば内視鏡の機能を活用してその場で切除することが可能だから。
ポリープはものによってはがんに変化する可能性があるので、がんの芽になり得るポリープを取っておくことで、がんを予防できるというわけです。
検便と内視鏡 どちらの方が効果が高い?
「大腸がんを調べる方法としては検便(便潜血検査)もあるよね?」「大腸内視鏡検査とどっちが効果が高いの?」
そう、疑問に感じている人もいるかもしれません。
医師によると、病気の発見率が高いのは内視鏡検査です。
患者としては便潜血検査の方が内視鏡検査に比べて負担が軽く、また費用も安いのですが、ポリープがあったとしてもおよそ50%の確率で陰性反応を示す、つまり「異常」とは判断されないそうなんですね。
早期大腸がんの約30%、進行大腸がんの約10%でも同じように陰性になるといいます。
一方で、異常を示す陽性反応が出たとしても、必ずしも大腸の病気にかかっているとは限らないそう。痔による出血などでも陽性反応が出てしまうことがあるためです。
内視鏡検査も人の手によるものなので病気が見逃される恐れはあるものの、より確実に病気があるかどうかを調べたい人であれば内視鏡検査の方が良いと言えます。
大腸内視鏡検査が受けられるお勧めクリニック
わたしが今回、大腸内視鏡検査を受けたのは「ふしや内科・消化器内科クリニック」(東京都調布市)。
なぜこちらで検査を受けたかというと、過去に取材したときと患者として診察を受けたときの両方とも、医師の印象が良かったからです。わたしが住んでいるマンションから近いという理由もあります。
院長の伏谷直(なお)先生=上写真右=は穏やかないい先生です。患者の話をしっかり聞いてくれて、よく説明してくれます。
医療機関を受診していると、自分がなんだか「多くの患者のごくごく一部」として作業的にさばかれているような印象を受けることがあったり、そのためにちょっと気になることを聞きづらいことがあったりしますが、伏谷先生に関していえばそんなことはありませんでした。
忙しいのかもしれませんがそんな雰囲気は出さず、自然に会話が進むので質問もしやすかった。
わたしは、「カル―」というIT企業との仕事で先生を取材させてもらいましたが、患者として診察を受けたときも取材時の印象と変わりませんでした。
うがった見方かもしれませんが、インタビューだと誰でもいいことは言えますよね。
自分を良く見せたいからと、誇張したことを言う可能性もゼロではありません。
でも、伏谷先生に関していえば、患者として診察を受けたときに見た振る舞いから「取材で先生が言っていたことは本当だったんだな」と思いました。
それで、先生が得意とする内視鏡検査もお願いしようと思ったのです。先生は開業までに胃と大腸の内視鏡検査をおよそ3万件、経験したそうです。
良ければカル―が運営するインタビューサイトの記事もご覧ください。
「患者さんにとって身近な存在であり、患者さんが良くなっていく経過を追うことができる開業医が、自分にとっての理想の医師像となっていました」
「大切なのは『この先生には何でも相談していいんだ』と患者さんに思ってもらうこと。
些細なことまでご相談いただけることで、結果的に診断や治療の効率は上がりますし、信頼関係を築いていければ、患者さんの治療に対する意欲も高まるのではないでしょうか」
患者として診察を受けた後、記事のこれらのくだりについて「先生は本当にそう思っているんだろうな」と感じました。
診療と検査を受けたときの印象は、「30歳代ゆうた」としてカル―が運営するクチコミ検索サイトにも投稿しました。
なぜ大腸内視鏡を受けようと思ったのか
さて、取材で縁が生まれた同院で大腸内視鏡検査を受けたわけですが、そもそもなぜ、医師が検査を勧める「40歳以上」に当てはまらない34歳のわたしが検査を受けようと思ったのか。
それは、29歳くらいのころに大腸内視鏡検査を受けて、「ポリープがある」と言われたから。
わたしは大学生のころに猛烈な腹痛と下血(肛門からの出血)のために救急搬送され、1、2ヵ月間ほど入院したことがあったんですね。
搬送直後に大腸内視鏡検査を受けたところ、医師から「潰瘍性大腸炎かクローン病の疑いがある」と言われました。
しかしながら、入院してある程度時間が経った後にもう一度検査を受けたらこれらの病気に該当する所見が見られなかったそう。
状態は良くなっていたので、「下血の原因は不明」として退院したのです。
こんな経験があったのでお腹の状態については日頃から気にしていて、「念のために」と29歳くらいのころに検査を受けたらポリープの存在を指摘された、という流れ。
当時は医療に関する知識が浅かったので、「ポリープがあった」と言われてもピンとは来ず、医師からも詳しい説明はありませんでした。
「ポリープがあるとまずいのか」「がんになる恐れはあるのか」と質問した記憶がありますが、「何とも言えない」くらいしか回答がなかったんです。「(大きさは)小さい」とは聞いた覚えがありますが、そのくらい。
約300人の医師を取材してきた今から思えば明らかに説明不足だと思いますし、患者として伏谷先生から聞いたような「大腸のポリープは他の部位にできるものよりもがん化の可能性が高い。ポリープが見つかった人は2、3年おきに検査を受けた方がいい」といった今後の指針も示してくれませんでした。
なので、時間の経過とともに印象も薄れていったわけですが、医療取材の経験が増えるにつれて「あれ、オレ、ポリープがあったって前に言われたよね」「放置しておいていいのかな…」と疑問と不安が増していったわけです。
大腸内視鏡検査を受けるまでの流れ
さて、大腸内視鏡検査の体験レポートに移りましょう。
大腸内視鏡検査を受けるまでの流れは以下の通りです。
- 医師の診察を受けて検査の内容や注意点を聞き、同意書にサイン。検査日を予約する
- 前日に食事制限をして、当日の検査前に下剤を服用して腸の中を空にする
- 検査を受ける
事前の準備については写真と合わせて詳しく書いた方がいいだろうと思ったので、こちらをご覧ください。
- 医師の指示に従うと前日の食事のメニューはどんなものになるのか
- 下剤はどんなふうにどのくらいの時間をかけて飲んでいくのか
- 下剤を飲むことで便はどう変わっていくのか、また便がどんな状態であれば検査を受けられるのか
これらのことがわかるように書きました。
大腸内視鏡検査当日の流れ
1.検査衣に着替える
下剤を飲んで便が透明の液状になり、検査を受けられる状態になったわたしは2019年5月15日(水)12時30分、自宅から徒歩10分の距離にある「ふしや内科・消化器内科クリニック」に行きました。
受付を済ませると、看護師の方が院内の奥にあるロッカールームを案内してくれて、こちらで検査衣に着替えました。
検査を受けやすいよう、パンツを脱いでからお尻の部分に穴が開いたハーフパンツを着ます。上半身には浴衣のようなゆったりした服を羽織りました。
2.リカバリールームで待機
着てきた服やバッグをロッカーに入れて隣のリカバリールームへ。
診療や検査が押していたようで、こちらで待機。
カル―のクチコミ検索サイトにも書きましたが、わたしが前に外来を受診したときと同様に、この日も1時間ほど待ちました。
伏谷先生や看護師の方に聞いたところ、2018年2月の開院以来、患者が増えていて、待ち時間の長い日も増えてきたようです。
初診の人はインターネットで予約を取れるので待ち時間は短いそうですが、再診の場合は日によってまちまちだそうで、わたしのように1時間ほど待つケースもあるよう。
「検査と外来の両方をやってるのでどうしても待ち時間が長くなってしまうことがある。再診の方を待たせない方法も検討していかないといけないですね」と伏谷先生。
パソコンでしこしこと仕事をしていたら時間が来たよう。看護師さんに呼ばれて、隣の検査室へ。
3、検査
上の写真は後日、記事掲載用に撮ったものですが、検査当日はベッドが中央に置かれていました。
ベッドの上に寝て、薬液を注入するための処置を腕に施されました。
同院では大腸内視鏡検査を行う際、意識レベルを落とす鎮静剤と痛みへの感覚を鈍くする鎮痛剤を使用していて、検査直前に薬液を注入します。
血圧や脈拍、血中酸素濃度を測る生体情報モニターが「ピコンピコン」と音を鳴らす中、看護師さんと雑談を交わしながら5分ほど待った後に先生が入室。
簡単にあいさつを済ませた後、鎮静剤・鎮痛剤を先生が注入しました。
ところが、なぜかわたしには効かず。
ほとんどの人は注入するとすぐに眠ってしまうそうで、わたしにも注入直後に視界が揺らいで物の遠近感が狂う感覚を覚えましたが、変化はそこまででした。
看護師さんによると、アルコールに強い人や日頃から睡眠導入剤を服用している人は麻酔が効かないことがあるそうですが、わたしはそのどちらにも当てはまらなくて。
アルコールにはやや強い方ですが特別にそうというわけでもなく、検査後に先生に聞いても「なぜかはわからない」とのことでした。
とまあ、麻酔で眠る感覚は味わえなかったわけですが、問題はありませんでした。
検査中に少しお腹が張る瞬間はありましたが全体的に痛みを感じることはなく、モニターを見ながらリアルタイムに先生に質問ができたので面白かったですね。
「自分の肛門を医師に見られるのが恥ずかしい」と感じる人もいるかもしれませんが、管を挿入されるのはあっという間で、気づけば入っていたという感じ。
手でお尻をぐわっと広げたり、先生がまじまじと肛門を見たりすることもありませんからそのあたりは過剰に心配する必要はないと思います。
検査時間は5分以上10分未満くらいで、体感的にはすぐに終わりました。
4.検査結果を聞く
検査を終えたわたしはまた隣のリカバリールームへ。
ほとんどの患者は麻酔のために検査直後も意識がぼんやりしているので、こちらで1時間ほど意識がはっきりするまで休むそう。
わたしは既に意識が鮮明だったので早々にロッカールームに移動し、検査衣から私服に着替えて待合室へ。
同院では検査結果をその日に伝えてくれます。
外来受診のために待っている患者はいましたが、検査を受けた人は優先的に案内されるようで、5分ほどした後に診察室へ。
わたしは先生や看護師さんと話しながら検査を受けていたので、先生の反応や会話から「問題はなさそうだな」と思っていましたが、やっぱり「異常なし」とのことでした。
一番気になっていたのがポリープの変化。ポリープはがん化しないものの方が多いそうですが、がん化するものの場合は数年でがんに変化してしまうそう。
前に検査を受けてポリープの存在を指摘されてから5年ほど経っているので、もしかしたら…と内心びくびくしていました。
しかし、今回の検査ではポリープが見つからなかったそうです。
あれ?
先生いわく、「大腸の粘膜の中に空気が入ってこぶ状に膨らむことがあってそれをポリープだと(過去に検査をした先生が)言った可能性はあるけど、わからない」とのこと。
とりあえず、今回の検査ではポリープを含めて異常は見られず、「とてもきれい」とのことでした。
医療ライター庄部の大腸の中
先生から「読者のためであるならば」と大腸の中の写真データをいただけたので、掲載しますね。
上の大腸の区分のイラストと照らし合わせながら見るとわかりやすいと思います。肛門から大腸の奥に向かって掲載していきます。
大腸内視鏡でポリープを見逃す可能性は?
「先生がポリープを見逃している可能性はないのか」
先生に聞いたところ、「ある」とのこと。
その仕組みが面白かったので説明しますね。
大腸の内壁は楽器のアコーディオン=下写真=のようにひだが連なっているそうで、人によって異なりますが、長さはおよそ1m50㎝から2m。
大腸内視鏡の管の長さは1mちょっとしかないので、そのまま挿入しても大腸の奥まで届きません。
そこで、内視鏡を使って腸を畳みながら管を奥まで進めていきます。そして、奥まで届いたら今度は機器を使って空気を入れ、腸を広げて、管を肛門の方へ戻しながら観察していきます。
近年は空気の代わりに炭酸ガスを用いる医療機関が増えていて、炭酸ガスの方が腸への吸収効率が高いため、お腹が張る感覚を減らせるそう。同院でも炭酸ガスを使用しているといいます。
こんなふうに小さな病変を見逃さないために空気または炭酸ガスを入れて見ていくそうですが、このとき、ひだの裏側はどうしても物理的に見えないそうなんですね。
伏谷先生は見逃さないようにひだを広げて見るようにはしているそうですが、「どんなに上手い先生でも全ての部分を見られるわけではない」とのこと。
ただ、仮にひだの裏側に小さなポリープがあって見つけられなかったとしても、時間の経過に伴って大きくなれば発見しやすくなります。
定期的に内視鏡検査を受けておけばどこかのタイミングで見つけられてがん化を防げる可能性が高いそうです。
わたしの場合は、「3年は様子を見てもいいのではないか」とのことでした。
いいクリニックは看護師がいいクリニック
もう、すごく安心しました。
わたしは医療を専門に取材しているので、10代から30代にかけて肺がん、胃がん、大腸がんになった患者の話を医師から聞くんですね。
だからわたしもポリープが既にがん化してしまっていて、最悪、「死ぬまで数年」ということもありえるなと思っていました。
クリニックから帰る途中に見上げた空がいつもより青く見えました。本当に。
そう、それと書きそびれてはいけませんが、こちらのクリニックは看護師さんもいいんです。
わたしが接した上の写真のお2人は共に気さくで、気持ちよく会話ができました。
おそらく会話を通して患者の緊張を和らげようとしてくれているんでしょうね。
注射も上手で――これは単にわたしとの相性が良かっただけかもしれませんが――、「今まで受けた中で一番良かった。チクリともしなかった」と看護師さんに伝えたら、「いえいえ、それは庄部さんの血管がプリプリしていていいからですよ」と笑いながら答えていました。
検査の前にもこんな雑談を交わせたので、リラックスして臨むことができました。
それと、こちらの看護師さんは「患者の気持ちが知りたい」と、同院に在籍する前に一般の患者として伏谷先生に胃の内視鏡検査をやってもらったそうです。
麻酔をしないで口から管を入れる方法でお願いしたそうですが、むせることなく楽に検査が受けられたそう。
「先生はお上手だなと思いましたね」(看護師さん)
医師の技術は素人にはわかりませんし、いくら技術の高い医師が検査を行ったとしても患者の性格や状態、臓器の構造からつらさが生まれてしまうことはあるのだと思います。
あくまでもわたし個人の経験に過ぎませんが、この大腸内視鏡体験記が参考になればうれしいです。
医療ライターの庄部でした。
記事内の情報、考え、感情は書いた時点のものです。
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