「花粉症の治療の中に、症状が出る体質を根本的に改善させようっていう『舌下(ぜっか)免疫療法』があるね」「健康保険が適用されるそうだけど、具体的にはどんな治療なのかな。始め方も知りたい」
今回は、こんな疑問や関心がある人に向けて、医療ライターのショウブ(@freemediwriter)が患者として舌下免疫療法を始めた経験(2021年7月から)と、過去に取材した医師やかかりつけ医の話などを参考にして、以下のことを紹介します。
- 舌下免疫療法とは
- 知っておきたい種々のリスク
- 始めるまでの流れと費用
舌下免疫療法は風邪などとは違って受診日に薬はもらえず、始めるまでに特定の手順を踏みます。
治療期間や副作用のリスクのほか、効果が出なかったり再発したりする可能性も知ってほしいところ。興味のある人は参考にしてみてください。
目次
舌下免疫療法とは
- アレルゲンを長期的に取り込み、体に慣れさせることで、症状を抑える
舌下免疫療法とは、花粉症の症状を引き起こすアレルギー物質(アレルゲン)を長期的に体に取り込むことで体質改善を図り、症状の根治をめざすものです。
なぜアレルゲンを取り込むことで効果が表れるかははっきりとわかっていないそうですが、日常生活で体内に入る量より多い量のアレルゲンを取り込むことで、アレルギー反応を抑える細胞が増えたり、過剰な免疫反応を抑える細胞が活性化したりすることが一因だと考えられているといいます。
厚生労働省も効果と安全性を認め、2014年に健康保険が適用されました。
舌下免疫療法の治療期間
- 花粉症シーズン外に開始
- 毎日服用
- 服用開始から3年以上の継続が推奨
舌下免疫療法は根気の要る治療です。
まず、舌下免疫療法は花粉症のシーズンに始めることはできず、6月以降に始める必要があります。
治療を始めたら1日に1回、錠剤1粒を飲む必要があり、服用開始から少なくとも3年は継続することが推奨されています。
わたしのかかりつけ医は「できれば5年間続けてほしい」と話していました。
舌下免疫療法のリスク
治療期間が長いのはネックだけど、効果が出れば薬を飲まなくても症状が和らいだり出なかったりするんだよね。いい治療だ
そう思う人にも知ってもらいたいのが、種々のリスク(危険性と損失の意味)が伴うことです。
- 副作用が出る可能性がある
- 長く服用しても効果が出ない可能性がある
- 効果が出ても再発する可能性がある
それぞれ、紹介していきますね。
舌下免疫療法の副作用
主なもの
- 口の中のかゆみ、不快感、腫れ
- 喉の不快感
- 耳のかゆみ――など
重大な副作用
- アナフィラキシーショック
アナフィラキシーショックが起こり得ることは特に知っておきたいことでしょう。
アナフィラキシーショック
医薬品などに対する急性の過敏反応。多くの場合、薬の投与後30分以内に蕁麻疹などの皮膚症状、腹痛や嘔吐などの消化器症状、息苦しさなどの呼吸器症状、意識混濁などのショック症状が見られる。
薬による怖い副作用として知られるアナフィラキシーショックですが、舌下免疫療法の場合、起こる可能性は低いそうです。
2017年に取材した医師は「これまで日本では確認されていない」といい、130人以上の患者に舌下免疫療法を行ったというかかりつけ医も「当院では起きたことはない」と話していました。
一方、起こりやすい副作用は上に挙げたもので、かかりつけ医によると、服用し始めのころは何らかの症状が出る人が多いそうです。
口の中の腫れや湿疹・蕁麻疹などの強い症状が出たことで治療を継続できなかった人も中にはいるといいますが、徐々に体が慣れていき、副作用が出なくなる人の方が割合的には多いといいます。
効果が出ない可能性がある
3年以上にわたって薬を飲み続けても、2~3割の人は効果が出ないと言われています。
わたしは舌下免疫療法について過去5人の医師に取材しましたが、この数字はかかりつけ医を含めて多くが共通して挙げていました。
「医学的には2~3割に効果が出ないと考えられているが、わたしが診た患者さんでは今のところほぼ全員に効果が出ている」と話していた人もいました。
効果が出ても再発する恐れがある
治療を行うことで効果が表れ、症状が軽減したとしても、治療を止めると再び症状がぶり返すことがあるそうです。
こうした再発リスクは治療期間が長くなるほど低くなるそうで、かかりつけ医は「治療期間が約3年間と約5年間の人を比べた場合、後者の方が再発可能性が低いというデータがあります。ですから、わたしはなるべく5年間は続けてほしいと考えています」。
医療ライターが治療を始めた理由
- 取材した医師のほとんどがポジティブに捉えていたから
- 体験取材をしたかったから
- 読者の役に立ちたかったから
わたしが舌下免疫療法を始めようと思った理由です。
取材した医師のほとんどがこの治療を「良いもの」とポジティブに捉えており、「効果が出る人が多い」と話していました。
とはいえ、効果が出なかった場合、「お金と時間の無駄になる」という捉え方ができますよね。
わたしも気になっていますが、医療分野を取材するライターとして知識と体感を得て、ブログの読者の役に立ちたい思いがあることから「適応があればやろう」と決めました。
適応
その治療を行うことで患者にメリットがある状況
舌下免疫療法の始め方
では、舌下免疫療法の始め方を伝えます。
流れは下の通り。簡単に触れていきます。
- 治療を行っている医療機関を探す
- 問診と血液検査
- 検査結果を聞き、適応があれば医療機関で1錠飲む
- 問題なければ自宅で6日間飲む
- 問題なければ濃度が上がったものをもらい、服用を続ける
- 以後、月に1回は受診
→うまくいけば、翌年の花粉症シーズンから効果が出る
1、治療を行っている医療機関を探す
舌下免疫療法を行っている診療科は耳鼻咽喉科と小児科であることが多い印象です。内科で行っていることもありますが、割合としてはまだ少ないように思います。
わたしは内科のかかりつけ医からお勧めの耳鼻咽喉科(記事内ではこれまで、かかりつけ医と記載)を紹介してもらいました。
舌下免疫療法を行っている医療機関は下のサイトで探せます。治療薬を販売する鳥居薬品が運営するものです。
2、問診と血液検査
医療機関を決めたら受診し、医師に舌下免疫療法に関する説明を聞きます。
医師の説明を聞いて治療を行いたいと思った場合はその日に採血をします。
血液検査(アレルギー検査)によって治療の適応があるかどうかを調べるためで、具体的には花粉症の原因となるアレルゲンに自分が反応する体質かどうかを数値で把握します。
3、検査結果を聞く
数日後、医療機関で検査結果を聞きます。
わたしの場合、データから「治療の適応はある」(かかりつけ医)そう。
アレルギー検査ではスギやヒノキ、ダニ、ハウスダストなど11種のアレルゲンを調べました。
上の写真の「クラス判定」の欄に0~4の数字が記載されていますが、これは「0」がアレルギー反応がないことを、「2」が中等度の反応があることを、「4」以上が強い反応があることを示すそうです。
「舌下免疫療法の薬はスギ花粉とダニに対するものの2種類があります。庄部さんの場合、ダニへの反応はないようなのでこの薬を服用する必要はありませんが、スギ花粉への反応は強いと考えられるため、スギ花粉用の薬を飲んで治療すれば症状の軽減が見込めます」(かかりつけ医)
花粉症の症状を抑えたい場合、舌下免疫療法の薬はスギ花粉用のものしかないため、スギ花粉への反応が中等度以下でスギ花粉以外のアレルゲンへの反応が強い場合、治療効果は出づらいといいます。
しかし、わたしの場合、アレルギー反応のある「ハンノキ」「ヒノキ」「スギ」「カモガヤ」のうち、スギがハンノキと同様、反応が強い「4」であるため、かかりつけ医は「適応がある」と判断したそうです。
4、医療機関で1錠飲む
治療を行うことを決めた場合、診察後に医療機関で薬を1錠飲みます。
スギ花粉用の薬は「シダキュア」といい、中にスギ花粉のエキスが入っています。これを舌の下(舌の付け根の部分)に入れて置き、1分間放置した後に飲み込みます。
舌下免疫療法はアナフィラキシーショックが起こる可能性があるため、待合室で30分ほど様子を見るわけですね。
シダキュアは一般的な錠剤とは異なり、舌の下に置くとすぐに溶け始めます。わたしの場合、1分ほど経つとほとんど溶けてなくなりました。
どんな副作用が起こるか少し不安でしたが、服用後5分ほどしてから喉がイガイガする違和感が出ました。ただ、「少し気になる程度」で症状は強くありませんでした。
30分後、再び医師の診察を受けました。
口の中や喉を確認されたところ、「副作用は出ていませんね」とかかりつけ医。
「アレルギーの元を入れているので今後もイガイガやかゆみが少し出るかもしれませんが、治療を続けていけると思います」
5、自宅で6日間飲む
処方してもらったシダキュアの6日間分です。クリニックで1錠飲んだので、それを含め、7日間飲んで様子を見ます。
一般的な錠剤よりも軽いのが特徴です。
こんなふうに舌の下に入れて舌を閉じ、1分間放置して、飲み込みます。わかりにくいですが、舌の付け根の真ん中あたりにある白いものが錠剤です。
シダキュア服用時の注意点
- 1日のうちいつ飲んでもいいが、服用後5分間はうがい・飲食をしてはいけない
- 服用前後の2時間は、激しい運動、飲酒、入浴をしてはいけない
服用時の注意点です。
6、約1週間後、濃度が上がった薬をもらう
薬が切れる前に医療機関を受診し、医師の診察を受けます。問題がなければスギ花粉エキスの濃度が増した薬1カ月分をもらいます。
わたしの場合、薬を飲み始めてから3日ほど経つと服用後のイガイガはなくなり、以降も他の副作用は感じられませんでした。
口の中を見たかかりつけ医も「問題ない」とのことで、治療継続が決まりました。
これから月に1度は受診し、都度薬をもらいに行くことになります。
早い場合、治療開始の翌年から症状が和らぐそうなので、わたしもそうなるといいですね。
受診日の1カ月後が休診日だったことから、40日分の薬をもらいました。
濃度が増すことで副作用が強く出ないか気になりましたが、感じ取れる症状はありませんでした。
舌下免疫療法にかかる費用
一体どれくらいの治療費がかかるのだろう?
これも読者の関心事ではないでしょうか。
結論は下の通り。
- 治療開始までに約5000円
- 月々の診察・薬代は約2500円(シダキュア1種の場合)
- 3年間の治療費は約10万円
治療開始までに約5000円としているのは、アレルギー検査に少しお金がかかるためです。わたしの場合は診察代と合わせて5350円でした。
少なくとも3年は続けるとなると、10万円ほどはかかる計算(年間3万円超)になります。
これをどう捉えるかは患者によりますが、わたしの場合は取材できるメリット、記事を書けるメリットが加わるので「すごく高いわけではない」という印象。
まとめ
舌下免疫療法、こんな人であれば向いているかもしれません。
- 花粉症の症状が強く、悩みの種になっている
- 経済的に困窮しているわけではない
- 医療にお金をかけることが優先順位として高い
- 「効果が出なくても仕方がない」と思える
- 毎日薬を飲むのが「そんなに手間ではない」と思える
わたしの場合、症状が「すごく強い」というわけではありませんが、薬を飲んでもくしゃみや鼻水、目のかゆみ、喉のヒリヒリ・イガイガ感が出るので、これらが和らげば生活の質は向上しそうです。
長い目を見て折々にレポートしてきます。
舌下免疫療法やシダキュアについては、易しく詳細が書かれた医療関係者用の資料があるので添付しておきます。
興味のある方は参考にしてみてください。
シダキュアによる治療を始める患者さんへ(インフォームド・コンセント用)
【追記】治療を始めて1カ月後までの感想
2021年8月15日現在、濃度が増した薬の服用を始めてから1カ月が過ぎたので、これまでの感想を追記しますね。
- 毎日薬を飲むのは手間ではない
- 副作用がぶり返すが、徐々に弱まる
感想の概要です。
「毎日薬を飲むのは面倒ではないか」と少し気がかりでしたが、わたしの場合、そうは思いませんでした。
あらじめ洗面台に数日分を置いておき、朝の洗顔後に手に取って服用。置いてある分がなくなったら棚から取り出し、また目のつきやすい所に置いておく――。
この方法により、飲み忘れはなく、面倒とも感じずに習慣化できました。
一方で、副作用は現れました。
自宅での治療を本格的に始めてから3日後、喉のイガイガ感がぶり返したのです。
飲んだ直後から症状が現れましたが、30分ほど経つと和らぎ、2時間くらいで気にならなくなるので「つらい」と感じるほどではありません。強い症状が出なくて良かったですね。
また、これとは別に18日後からは薬を置く舌の下に張りを感じるようになりました。
薬を飲んでからすぐにこの部分が突っ張るような感じがするようになったのですが、ただ、この症状も2時間ほどすると気にならなくなります。
副作用はこの「喉のイガイガ感」と「舌の下の張り感」だけで、ほかは今のところ現れていません。
舌の下の張り感は8月7日(本格服用から26日後)ごろになくなりました。
喉のイガイガ感はまだありますが、程度は弱まっており、症状が消えるタイミングも1時間後に早まりました。
かかりつけ医が「徐々に副作用が弱まっていく人が多い」と話していましたが、わたしの場合もそのようです。
今のところ問題はなく、薬を飲み続けられています。
【追記2】舌下免疫療法の効果が出ました
2022年3月5日現在、はっきりと舌下免疫療法の効果を感じたので紹介します。
わたしは例年、2月上旬から5月中旬ごろにかけて、花粉症の薬を飲んでも下の症状が出ていました。
- 朝から夕方まで鼻水が定期的に出る
- 外出後、屋内に入ると鼻水とくしゃみが出る
- 終日、定期的に目がかゆくなる
- ときどき、喉にイガイガ感が出る。ひどくなると痛む
- 酒を飲むと鼻水が出る
花粉症シーズンは明らかに生活の質が落ちると感じていましたが、2022年の2月から3月5日まで、上の症状を全くと言っていいほど感じていません。
この期間には花粉が「非常に多い」(Yahoo!天気アプリ)とされる日も複数ありましたが、症状は出ませんでした。
わたしは例年、1月中から花粉症の薬を飲んでいて、今年も舌下免疫療法の効果が出るかわからなかったので同じようにしていました。
薬の影響もあるのかと思い――そうであっても、薬を飲んでも症状が出ていたのでこの時点でうれしいのですが――止めてみました。
すると、目のかゆみが少し現れたように感じましたが違いはそれくらいでした。
東京都によると、2022年の花粉の飛散量は例年の1.1倍、2021年の1.5倍になる見込みだそうで、飛散量が少ないわけではなさそうです。
「舌下免疫療法の効果が出た」と判断して良いのではないでしょうか。
わたしが治療を始めたのが2021年7月なので、およそ7カ月間の服用で効果が出たことになります。
舌下免疫療法は2~3割の人には効果が出ないと考えられているそうなので少し不安でしたが、良かったです。
少なくとも3年間は継続した方が良いそうなので、引き続き薬を飲んでいこうと思います。
なお、治療開始1カ月後の時点で副作用として喉のイガイガ感がありましたが、その後、なくなりました。
今は違和感がなく、薬を飲めています。
医療ライターの庄部でした。
記事内の情報、考え、感情は書いた時点のものです。
記事の更新情報はツイッター(@freemediwriter)でお知らせします。
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