「『健康にいいこと』の情報はたくさんあるけど、一体どれが本当なの?」「専門家によって精査された、正確な情報を知りたい」
こんな関心がある人に向けて、エビデンス(科学的な根拠)にもとづいて健康に良い習慣がまとめられた良書を要約します。
医師の津川友介氏が書いた「HEALTH RULES (ヘルス・ルールズ) 病気のリスクを劇的に下げる健康習慣」(2022年、集英社)です。
カリフォルニア大学ロサンゼルス校医学部で准教授を務める津川氏は、書籍やメディアなどを通じてエビデンスのある医療や健康に関する情報を発信しています。
エビデンスの中でも質の高いものを選んでおり、また読み手の価値観を尊重する伝え方などから、わたしは誠実な医師である印象を受けています。
津川氏の別の著書も良い本だと感じ、要約記事を書きました。エビデンスの質の捉え方はこちらに書いているので、興味のある方は参考にしてみてください。
ヘルス・ルールズ要約の概要
この記事では、本に掲載された以下のテーマについて、大規模な研究の結果を踏まえ「健康にどう良いのか悪いのか」を要約します。
- 食事、運動、睡眠
- 入浴
- ストレス
- サプリメント
個人的には、「入浴」「ストレス」「サプリメント」の健康に及ぼす影響を興味深く読みました。
「ストレスは病気のリスクを上げるものの、がんの発症との関係は認められていない」ことや、「サプリメントで健康にメリットが見込めるものは少なく、むしろ有害な成分が含まれることがある」ことは面白かったですね。
【食事】健康に良い食べ物
「健康に良い食べ物は、魚、野菜・果物、茶色い炭水化物、ナッツ、オリーブオイルである」
魚
- 死亡率を下げる
- 循環器疾患とがんを予防する可能性がある
科学的根拠
・2016年にヨーロッパの栄養学雑誌に掲載された大規模研究によると、魚を食べる人ほど死亡リスクが低かった。
この研究では12の研究(計67万人)のデータを統合して分析、1日60gを食べていた人は全く食べない人に比べて死亡率が12%低かった。ただ、結果を見ると「60g以上食べてもプラスアルファの効果はなさそう」と筆者。
・複数の研究を統合した研究によると、1日85~170gの魚(特に脂の多い魚)を食べると、ほとんど食べない人に比べて心筋梗塞で死亡するリスクが36%も低かった。
・21の研究を統合した研究では、オメガ‐3脂肪酸換算で1日0.1gの魚を食べると乳がんのリスクが5%下がる可能性があると報告された。
・別の研究で大腸がんと肺がんのリスクを下げる可能性があるとも報告されている。
野菜と果物
- 死亡率を下げる
- ジュースにすると、健康効果を失う可能性がある
科学的根拠
・16の研究をまとめた研究で、1日の果物の摂取量が1単位(バナナ2分の1本、リンゴ小玉一つ)増えるごとに全死亡率(原因に関わらず死亡する確率)が6%減り、野菜では1単位(小皿1杯)増えると全死亡率は5%減ると報告された。
・1日の摂取量が5単位(380~400g)を超えると死亡率は変わらなくなると考えられている。「つまり、1日400gくらい食べれば健康上のメリットは十分だと言ってよいだろう」
ジュースにすると、健康効果を失う可能性がある
未加工の野菜・果物が健康に良いという研究結果はたくさんあるが、ジュースやピューレなどに加工すると健康上のメリットがなくなる可能性が示唆されている。加工の過程で不溶性食物繊維など重要な栄養素が失われるためと考えられている。
「未加工の野菜・果物」は生である必要はなく、ゆでたものでもスープでもよい。「冷凍したものを解凍してもそれほど大きな変化はないだろう」
茶色い炭水化物(玄米やそばなど)
- 「茶色い炭水化物」は玄米、そば、全粒粉入りパンなど
- 死亡率を下げる
- 心筋梗塞と脳卒中のリスクを下げる
- 糖尿病のリスクを下げる
科学的根拠
・アメリカとヨーロッパの国々の研究を統合した78万6000人のデータを使った研究によると、1日70gの茶色い炭水化物を食べたグループはこれらをほとんど食べないグループに比べ、死亡率が22%低かった。
・7つの研究を統合した研究によると、茶色い炭水化物を多く食べるグループは少ないグループに比べ、心筋梗塞や脳卒中など動脈硬化によって起こる病気になるリスクが21%低かった。
・玄米を多く食べるグループ(週に200g以上)は、ほとんど食べないグループ(月に100g未満)に比べて糖尿病になるリスクが11%低かった。
この研究では、1日50gの白米を玄米に替えることで、糖尿病になるリスクを36%下げられると推定した。
ナッツ、オリーブオイル
- 健康に良い「地中海食」の中心が魚、オリーブオイル、ナッツ
- 脳卒中と心筋梗塞による死亡率を下げる
- 乳がんになるリスクを下げる
- 糖尿病になるリスクを下げる
科学的根拠
・大規模研究の結果で、地中海食の栄養指導を受けたグループは、脳卒中と心筋梗塞によって死亡する確率が29%下がった。
上記と同じデータを用いた別の研究では、乳がんになる確率が57%下がった。
・ある研究で、地中海食は糖尿病になるリスクを30%下げると報告された。
【食事】健康に悪い食べ物
「健康に悪い食べ物は、牛肉・豚肉・ハムなどの加工肉、白米やうどんなどの白い炭水化物、バターなどの飽和脂肪酸である」
牛肉、豚肉、ハムなどの加工肉
- 加工肉は脳卒中、心筋梗塞、大腸がんのリスクを上げる
- 牛肉と豚肉は大腸がんのリスクを上げる
- 加工肉の方が牛肉・豚肉より悪影響が大きい
科学的根拠
・国際がん研究機関(IARC)は「加工肉には発がん性があり、赤い肉にはおそらく発がん性がある」と発表している。「加工肉」はハム、ソーセージ、ベーコンなどで、「赤い肉」は牛肉と豚肉を指す。
同機関によると、加工肉の1日当たりの摂取量が50g(ホットドッグ1本、ベーコンスライス2枚)増えるごとに大腸がんのリスクが18%増加する。
赤い肉(牛肉と豚肉)は、1日100g摂取するごとに大腸がんのリスクが17%増加する。
・日本人を対象にした国立がん研究センターの研究では、45~74歳の約8万人を8~11年追跡調査したところ、赤い肉や加工肉の摂取量が多くなるほど、大腸がんになるリスクが高くなる傾向が認められた。なお、加工肉のほうが赤い肉より悪影響が大きいと考えられている。
・九つの論文を統合した研究によると、加工肉の摂取量が多い人ほど、全死亡率、脳卒中や心筋梗塞など動脈硬化を原因とする死亡率、がんによる死亡率のいずれも高かった。
・五つの論文をまとめた別の研究によると、加工肉の摂取量が1日当たり50g増えるごとに脳卒中を起こすリスクが13%増加し、赤い肉の摂取量が1日当たり100~120g増えるごとに脳卒中のリスクが11%上がることが示唆されている。
白い炭水化物
- 「白い炭水化物」とは、白米、うどん、パスタ、小麦粉を使った白いパンなど「精製された炭水化物」を指す
- 白い炭水化物は糖尿病、脳卒中、心筋梗塞のリスクを上げる
科学的根拠
・白い炭水化物は砂糖ほど甘くないが、身体の中で糖に分解・吸収されるので本質的には「糖と同じ」。
・多くの研究で、白い炭水化物は血糖値を上げ、糖尿病、脳卒中・心筋梗塞などの動脈硬化による病気が起こるリスクを高める可能性があると報告されている。
・世界的に権威のある英国の医学雑誌に掲載された、4つの研究をまとめた研究によると、白米の摂取量が1杯増えるごとに糖尿病になるリスクが11%増えた。
・日本人のデータを用いた国内の研究によると、男性では白米の摂取量が1日2杯以下のグループに比べ、1日2~3杯食べるグループは5年以内に糖尿病になるリスクが24%高かった。一方で、1日2~3杯食べるグループと3杯以上食べるグループではリスクは変わらなかった。
上の研究で、女性は白米の摂取量が増えるほど糖尿病になるリスクが増した。1日1杯しか食べないグループに比べ、1日2杯食べるグループでは15%、1日3杯食べるグループでは48%、1日4杯食べるグループでは65%も糖尿病になるリスクが高かった。
バターなどの飽和脂肪酸
- 飽和脂肪酸とは、常温で固形の動物性脂肪
- バターを多く摂取すると、死亡率を少し高める
科学的根拠
・油には健康に良いものと健康に悪いものがある。健康に良いものの代表がオリーブオイルであり、悪いものの代表がバターなどの飽和脂肪酸。
・飽和脂肪酸は一般的に、常温では固形で、乳製品や肉などの動物性の脂肪を指す。不飽和脂肪酸は常温では液体で、植物に由来する油を指す。
・複数の研究をまとめた研究によると、わずかではあるものの、バターの摂取量が多い人のほうが死亡率が高かった。
【運動】
- たくさん歩くほど死亡率は下がる
- 健康効果は1日1万2000歩くらいで頭打ち
- 日本人の平均歩数は1日約6010歩
科学的根拠
・約1万7000人の高齢女性を対象にしたハーバード大学の研究によると、歩数の多い人ほど死亡率が低かった。
・4840人のアメリカ人のデータを解析したところ、1日1万2000歩くらいまでは歩数が多いほど死亡率が低かった。
・111カ国の約70万人を対象にしたスタンフォード大の研究によると、日本人は1日約6010歩歩いていることがわかった。
・定期的にランニングをしている人は、そうしていない人よりも寿命が約3年長いという研究結果がある。
・アメリカのガイドラインでは、以下の運動内容で健康維持効果があるとしている。
- 週150~300分間(2時間30分~5時間)の中強度の運動(早歩きや階段の上り下りなど)、または週75~150分間の高強度の有酸素運動(ジョギングなど)
- 上記に加えて、週に2回の筋力トレーニングでメリットが増す
運動とダイエットの関係
- 食事調整をせず、運動だけで痩せるのは難しい
科学的根拠
・人間のカロリー消費の多くは基礎代謝と食事に関係する代謝によってなされる。運動で消費されるのは全体の10~30%にすぎない。
基礎代謝とは、生命活動を維持するために何もせずじっとしていても消費するカロリーのこと。食事に関係する代謝とは、食事の咀嚼、消化、吸収によって消費されるカロリーのこと。
・タンザニアの先住民族の代謝を調査した研究によると、この民族は狩猟採集民族であり日常的に活動量が多いにもかかわらず、消費カロリーは欧米人のそれと変わらなかった。
消費カロリーの大部分は基礎代謝であるため、活動量を増やしても消費カロリーはあまり増えないことが示唆された。
【睡眠】
- 睡眠不足は免疫力を下げ、心筋梗塞・肥満・死亡のリスクを上げる
- 睡眠不足は仕事のミスを増やす
- 健康維持には7時間以上の睡眠が必要
科学的根拠
・約50万人を対象にした英国の研究では、睡眠時間が6時間未満の人はそれ以上の人に比べて心筋梗塞になるリスクが20%も高かった。
・約4000人を対象にしたスペインの研究では、睡眠時間が6時間未満の人は動脈硬化が進んでいることがわかった。これは、睡眠時間が短くなると血液中の炎症性物質が増えることが原因だと考えられている。
・睡眠時間が短いと、免疫力の低下、肥満・死亡リスクの増加につながると報告されている。睡眠不足により、食欲増進効果のあるホルモンが分泌され、逆に食欲抑制効果のあるホルモンの分泌が減ることが明らかになっている。
・48人を対象に作業能力などを評価するテストを行ったところ、睡眠時間が短いほどミスが多かった。このときは4時間、6時間、8時間睡眠を14日続けるグループと、3日間徹夜の計4グループで実験を行った。
・アメリカの国立睡眠財団は、18~64歳の人は7~9時間、65歳以上の人は7~8時間の睡眠が必要としている。これら未満の時間では健康にさまざまな悪影響をもたらすエビデンスがある。
【入浴】
- 脳卒中と心筋梗塞のリスクが下がる
- 痛みが緩和する可能性がある
- サウナは脳卒中や心臓病のリスクを下げる
- 入浴は万人に良いわけではない
科学的根拠
・約3万人を対象に日本で行われた研究では、頻繁に入浴する人の方があまりしない人に比べて、脳卒中や心筋梗塞を起こす確率が低かった。血管が広がって血圧が下がり、水圧により血流が改善するためだと考えられる。
・線維筋痛症の患者を対象にした研究で、浴槽入浴することで痛みが緩和されたと報告されている。変形性関節症の患者を対象にした研究でも同様の可能性が示唆されている。
・複数の研究をまとめた論文で、サウナ浴は血圧、脳卒中や心筋梗塞などのリスク、心臓疾患による突然死のリスクを下げると報告されている。
・サウナが心不全に良いという研究結果も複数ある。
入浴が悪影響を与えるケース
・不安定狭心症などの心臓の病気やコントロールされていない高血圧などがある場合、入浴は病気を悪化させる恐れがある。
・血圧が低い高齢者の場合、入浴で血圧が下がりすぎて転倒リスクが上がることがある。
・妊娠初期の女性は熱い湯に長時間入らない方が良いとされている。
約2万3000人の妊婦を対象にした研究によると、熱いお風呂に定期的につかる習慣のある女性から生まれてくる赤ちゃんは、神経の障害(無脳症や二部脊椎などの神経管閉鎖不全によって起こる病気)のリスクが2.8倍高かった。
妊娠中に母体の深部体温が高くなりすぎることで、胎児に悪影響を与えると考えられている。
【ストレス】
- ストレスを感じている人ほど脳卒中と心筋梗塞のリスクが高い
- ストレスを感じている人ほど動脈硬化が進んでいる
- ストレスとがんの発症に関係は認められていない
- 動物実験では、ストレスががんを悪化させた例がある
科学的根拠
・7万3424人の日本人を対象にした研究では、自覚的ストレスが高い人は低い人に比べて、脳卒中と心筋梗塞のリスクが高かった。特に女性は、これらの病気になるリスクが1.5倍、これらの病気で死亡するリスクが約2倍高かった。
・日本人男性を対象にした別の研究では、ストレスを感じている人ほど動脈硬化が進んでいた。
・14の研究を統合した研究では、ストレスを感じている人は脳卒中のリスクが33%高かった。この研究でも、男性より女性の方がストレスと脳卒中の関係が高かった。
・以前から「ストレスでがんの発症リスクが上がるのではないか」という議論があるが、大規模研究の結果、どのがんにおいても仕事のストレスとがんのリスクの間に関係性は認められなかった。
この研究では、ヨーロッパの12の研究をまとめ、17~70歳の男女11万6056人を約12年間追跡調査した。
・英国人女性10万6000人を対象にした研究では、ストレスと乳がんの間に一貫した関係性は認められなかった。
・前立腺がんを発症したネズミを対象にした研究で、ストレスを与えられたネズミほどがんが大きく増殖し、免疫機能の低下も確認された。
・乳がんを発症したネズミを対象にした研究では、転移した部位にストレスホルモンの受容体が発現していた。このことから、がんの転移においてもストレスが影響を与えている可能性が示唆された。
なぜストレスで不調が起こるか
・ストレスによって起こり得る不調は、自律神経失調症、胃・十二指腸潰瘍、過敏性腸症候群、うつ病、気管支ぜん息、頭痛などたくさんある。
・ストレスを感じると、アドレナリンやノルアドレナリンなどのホルモン(ストレスホルモン)が分泌される。その結果、血圧・心拍数・血糖値が上がる。
このような身体の変化は危機に直面した際、プラスに働く。素早く反応して逃げやすくなる。人間が野生動物だったころはこうした変化が有効だったが、現代では命の危機にさらされることは珍しい。
結果、人間は命の危機に対してでなく、人間関係や悩みなどにストレスを感じるようになった。現代人の感じるストレスが命に直接関わることは少ないので、おそらくそこまでストレスホルモンを分泌する必要はないのだが、野生時代の機序がまだ残っているのだと考えられる。
そのようにして、過剰に分泌されたストレスホルモンが私たちの健康や体調にさまざまな悪影響を与えているのだ。
【サプリメント】
- 健康にメリットが見込めるサプリメントは少ない
- 数多くの研究で、期待された効果は確認されていない
- サプリメントは健康に有害な成分を含むことがある
- 骨粗しょう症の人などサプリメントを摂ったほうが良いケースもいる
科学的根拠
・世界的な研究チームが「質が高い」と評価した25の研究を検証したところ、オメガ‐3脂肪酸の摂取によって心筋梗塞などで死亡する確率は変わらないとした。別の大規模研究でも、がんと心筋梗塞のリスクは下がらなかった。
・ビタミンDについても、今のところ健康上のメリットがあるエビデンスはない。
・アメリカ医師会の雑誌には、「サプリメントは健康に有害な成分を含むことがあり、薬や他のサプリメントと一緒に摂取すると健康に有害な作用を及ぼす可能性がある」と記載されている。
・上の雑誌によると、アメリカでは年間約2万3000人がサプリメントが原因と考えられる健康被害で救急外来を受診していると推計されている。
・上の雑誌によると、サプリメントの規制は弱く、安全性や有効性に関する国の機関による評価はほとんどされていない。
・妊娠する可能性がある女性は、葉酸(ビタミンの一種)を含むサプリメントは推奨される。妊娠初期に葉酸の摂取量が少ないと、二部脊椎など胎児の先天性異常のリスクが上がるため。
・骨粗しょう症を抱えており、食事で十分にビタミンDを摂取できない人や鉄欠乏性貧血などで医師から指示されている人などは、サプリメントを摂ったほうが良い。
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