命に関わる脳梗塞や心筋梗塞は、「動脈硬化」が進むと起こりやすくなるといいます。その進み具合を把握するのに「最も手軽かつ有用な検査」と言われるのが頸動脈(けいどうみゃく)エコー検査です。
「体への負担がなく、短時間」とは聞きますが、実際どんな検査なのでしょうか。
医療ライターのショウブ(@freemediwriter)が、循環器疾患(心臓と血液が関連する病気)が専門のかかりつけ医に依頼し、検査を受けました。
今回は、頸動脈エコー検査のことを全く知らない人が包括的にその内容と意義がイメージできるよう、記事を書きます。
具体的に書くのは下のテーマ。興味のある人は参考にしてみてください。
- 頸動脈エコー検査とは
- 「動脈硬化」とは
- なぜ頸動脈を見るのが有効?
- 頸動脈エコー検査では具体的に何を見るのか
- ライター庄部が受けた検査の模様と結果
- 動脈硬化が進んでいた場合にどうすればいいか
- どんな人であれば検査を受けた方がいいか
記事を書くに当たり、かかりつけ医や過去に取材した医師たちの発言のほか、複数の公的機関や医療機関のウェブサイト、メディアの記事を参考にしました。
参考資料の内容も面白いので、最後に列記しますね。
目次
頸動脈エコー検査とは
頸動脈エコー検査とは何か。
参考サイトによると、動脈硬化の進み具合がわかる「最も手軽で有用な検査」だといいます。
頸動脈は脳に血液を送る首の血管(上画像参照)であり、超音波を活用して頸動脈の中の様子を見るのがこの検査です。
具体的には、超音波を照射する小型の機器(プローブ)を患者の首に当てて上下左右に動かし、反射して跳ね返ってきた超音波を検出して画像化するそうです。
痛みや被ばくはなく、10分ほどで終わるものだといいます。
動脈硬化とは
多くの人が聞いたことがあるであろう「動脈硬化」とはどんな現象なのでしょう。
人間の血管には、「動脈」と「静脈」の2種類があります。血液を心臓から全身に送るのが動脈であり、逆に全身の血液を毛細血管から心臓に送り返すのが静脈です。
このうち動脈に異常が起き、弾力が失われることを「動脈硬化」と言います。
動脈の内壁にコレステロールなどの脂肪を含む物質(プラーク)がこびりついて、血管が狭くなったり固くなったりすることで、正常な血管に特有の弾力が損なわれてしまうそうなのです。
動脈硬化の原因となるプラークは、脂質異常症や高血圧症、糖尿病などの生活習慣病を抱えていたり、肥満だったりするとできやすくなるといいます。
プラークができて動脈硬化が起こり、動脈硬化が進むと血流が悪くなります。
これらの現象が進んでしまうと、脳の血管が詰まる「脳梗塞」や、心臓を取り囲む冠動脈がふさがって心臓の筋肉の一部が死んでしまう「心筋梗塞」などが起きてしまいます。
プラークがはがれて飛び、動脈をふさいで詰まらせてしまうらしいのです。
頸動脈は脳に血液を送る血管なので、頸動脈で動脈硬化が進んでいると、特に脳梗塞のリスクが上がるといいます。
脳梗塞や心筋梗塞は死亡する危険性のある病気です。
なぜ「頸動脈」を見るのが有効か
そこで疑問に浮かぶのが、頸動脈を見ることの有用性です。
なぜ、全身にある動脈の中で頸動脈を見ることが効果的なのでしょうか。
それは、
- 頸動脈が全身の血管の中で動脈硬化が起きやすい部位だから
- 首の表面に近いところにあり、検査がしやすいから
この2点が理由だといいます。
頸動脈の中でも特に動脈硬化が起きやすいのが、頸動脈が2つに分かれる分岐部。具体的には、脳の方に血液を送る「内頸動脈」と、顔の方に血液を送る「外頸動脈」に分かれる部分を「頸動脈分岐部」と呼ぶそうです。
上の画像がわかりやすいので、もう一度はっておきます。
「頸動脈分岐部は、全身の中でも血液の流れがよどみやすい場所なんですね。そこにコレステロールの多い血液が流れるとカスがたまりやすくなり、やがてプラークができてしまいます」(かかりつけ医)
かかりつけ医によれば、頸動脈が検査しやすい動脈であることも間違いはなく、「体の表面に最も近い上に血管が太く、さらに他部位に比べて形状の個人差が小さい」ため、画像として描写しやすいといいます。
頸動脈エコー検査で具体的に何を見るのか
頸動脈エコー検査では、具体的に何を見るのでしょう。
それは主に3つあるといいます。
- 動脈の壁の厚み
- プラークの有無やその付着程度
- 血液が流れる速さ
①について説明しますね。
動脈の内膜と中膜の厚みが指標になる
上の画像のように、動脈の壁は「内膜」「中膜」「外膜」の三層構造になっており、これらのうち内膜と中膜を合わせたものをIMT(Intima Media Thickness)(内膜中膜複合体肥厚度)と言います。
IMTが1.1㎜を超えると動脈硬化が進んでおり、脳梗塞や心筋梗塞のリスクが高くなると考えられているそうで、この場合、頸動脈だけでなく全身の血管の動脈硬化も進んでいると考えられるといいます。
①~③を総合的に見た上で、動脈硬化の進み具合を推測していくそうです。
頸動脈エコー検査の流れと結果
実際の検査の模様を紹介しますね。
- クリニックで予約を取って検査日に訪問
- 検査を受ける(10分)
- 検査結果を聞く(15分)
事前に予約を取って訪問
わたしがかかりつけの先生に「頸動脈エコー検査を受けたい」と相談したのが2020年10月27日。最短で検査可能だったのがおよそ1カ月後の11月24日で、この日の午後2時40分に予約を取りました。
こちらのクリニックでは、予約制でお昼の休診時間に検査を行っていて、1日に検査できる人数は1人か2人であるそう。
こういった体制のため、検査日までにある程度待つ必要があったわけです。
先生とはもう4年ほどのお付き合いで、先生はわたしが医療を専門に取材しているライターであることも知っています。
今回、「自分のブログに体験談を載せたい」という依頼趣旨にも同意してくれて、写真撮影にも協力してくれました。
先生が循環器専門であることも関係しているのでしょう、同院では頸動脈エコー検査を受ける患者が多いので、キャパシティーを考慮して「クリニックや医師の名は伏せてほしい」とのことでした。それでもご協力いただけるのはうれしいことです。
検査を受ける(10分)
検査の流れはシンプルです。
ベッドに寝て、看護師さんに首の両側面にジェルを塗ってもらった後、先生が入室。先生が小型の機器(プローブ)を首に当て、上下左右に動かしつつ、画像を見ていきます。
検査時間は左右の頸動脈それぞれ5分くらいで、合わせて10分ほど。
患者としては、機器を当てられてジェル越しに移動されているだけなので、痛みはありません。違和感や抵抗感もありませんでした。
検査結果を聞く(15分)
検査が終わると、ジェルを拭き取ってもらった後に隣の診察室に移動(検査を受けたのは処置室でした)。
パソコンに表示された画像や検査に関するパンフレットを基に、先生が説明してくれました。
予想していた通り、わたしに異常はありませんでした。
わたしのIMTは片方が0.4㎜でもう一方が0.6㎜。「比較的に厚い部分を計測してもこの程度なのでいたって正常」とのこと。
プラークと見られるものはなく、また、血液の流速は「102センチメートルパーセカンド」、つまり、毎秒1mほどでこの数値も問題ないそうです。
「かりに血管の中に大きなプラークがあった場合、プラークの手前は流速が緩やかになり、逆にプラークを越すと流速が速くなります」(同)
これはイメージがしやすいですね。
目の前にある障害物が大きいほど液体が通りにくくなるのでその付近はスピードが遅くなり、逆に障害物の向こう側では滞っていた液体が一気に流れ出すわけですからスピードが速くなる、と。
「他にも、頚椎の間を縫って頭に入っていく椎骨(ついこつ)動脈(上画像参照)もチェックしました。この動脈は首の奥にあるので途中までしか追えませんが、確認できる範囲で言えばここも問題ありません。結果、異常は何も見つかりませんでした」(同)
動脈硬化が進んでいる血管の画像も添付しておきます。左が正常な血管で、右の矢印の先がプラークだそうです。白い盛り上がりが確認できますね。
動脈硬化が進んでいた場合の対応
最後に、頸動脈エコー検査で異常が見つかった場合の対応と「どんな人であれば検査を受けた方がいいか」の2点について書きます。
異常の程度が軽い場合は生活習慣の改善などを図り、重い場合は服薬やプラークを取り除く手術、血管の中がそれ以上狭くならないよう管を挿入して血管を広げるカテーテル治療などが選択肢に入るそうです。
外科的な治療をするほどではない場合、循環器内科が専門のかかりつけ医の方針では、「徹底的にコレステロール値を下げる」といいます。
治療方針を検討する際は基本的に頸動脈エコー検査の結果だけを頼ることはせず、脂質異常症や糖尿病など他の病気の状況を踏まえて考えるそうです。
厚生労働省のサイトには先述の通り、「IMTが1.1㎜を超えると動脈硬化」とありますが、かかりつけ医は「1.3㎜までなら様子見。明らかにまずそうなのは2㎜を超えてくるとき」と話していました。
かかりつけ医の考えでは、IMTが2㎜を超えていて、かつ脂質異常症であれば服薬を勧めるといいます。
服薬を促す脂質異常症の数値の目安は、悪玉(LDL)コレステロールの値が善玉(HDL)コレステロールの値よりも2~2.5倍ほど高く、かつ悪玉コレステロール値が160mg/dlを超える人だそうです。
脂質異常症…悪玉コレステロールや中性脂肪が多すぎたり、善玉コレステロールが少なすぎたりしている状態を示す病気。
これをベースに糖尿病など他の病気の状況も踏まえて治療方針を立てるといい、服薬を始めたら悪玉コレステロールの値を80mg/dl以下に下げることを目指すといいます。
頸動脈エコー検査を受けた方がいい人
どんな人であれば頸動脈エコー検査を受けた方がいいのでしょうか。かかりつけ医はこう話します。
「当院の場合、まず脂質異常症の方には必ず受けてもらうようにしています。
それ以外の方では、悪玉コレステロールの値が140mg/dl以上で善玉との比率が2.5倍ほどであれば『一度やってみましょう』と勧めることが多く、また糖尿病や服薬で数値が下がらない難治性の高血圧症の方にご提案することもあります。
これらの中で最も必要性が高いのは脂質異常症の方だと考えています」
頸動脈エコー検査の費用
頸動脈エコー検査の費用は健康保険が適用される場合と自費で受ける場合とで異なり、前者は3割負担の人で診察代を含めて2500円ほど、後者では6000円ほどで行っている医療機関が多いようです。
どの場合に保険が適用されるかは医師の判断によりますが、過去に取材した医師によると、生活習慣病や何らかの症状を抱えている場合は保険が適用されるといいます。
わたしのかかりつけ医はこれらの場合に加えて、血液の数値に何らかの異常が見られる場合は「保険でやっている」とのこと。
ちなみにわたしは10月に受けた健康診断で善玉コレステロールの値が基準値より少し高かったため、先生が保険内で検査を行ってくれました。
先生も話していましたが、コレステロールを見る場合は悪玉の数値と善玉とのバランスを見ることが重要なので、善玉だけが少し高いわたしの場合、問題にはなりません。やはりこのあたりは医師のさじ加減のようです。
医療ライターの庄部がレポートしました。
記事内の情報、考え、感情は書いた時点のものです。
記事の更新情報はツイッター(@freemediwriter)でお知らせします。
参考
公的機関・医療機関のウェブサイト
「頸動脈エコー検査の説明」(厚生労働省)
「知っておきたい動脈硬化」(動脈硬化予防啓発センター)
「脳の動脈」(脳神経外科疾患情報ページ)
「脂質異常症と言われたら」(国立循環器病研究センター)
メディアの記事
「脳梗塞・心筋梗塞の最新検査 血管の『垢』を超音波で計測」(NEWSポストセブン)
「吹田研究が世界に示した頸動脈エコーの意義」(メディカルトリビューン)
「コレステロールの影響に男女差 女性はあまり気にする必要なし!?」(ヨミドクター)
「10年後の認知症リスク、頸部エコーで予測 英研究」(CNN)
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