NHK記者の過労死。報道機関は軍隊的な組織風土を変えるべき。わたしが辞めた理由の一因で、周囲の記者も心身の不調で休職・退社した。中にはデスクから詰められすぎて目の前で吐いた人も。わたしも車内で叫び、携帯を叩きつけたことがあった。わたしのいた新聞社では記者のことを「兵隊」と呼んでいた。
— 庄部勇太/医療ライター (@yutashobu3) 2017年10月5日
今はないアカウントですが、過去にこんなツイートをしたことがありました。
人間はなぜ、働きすぎると死ぬのか。
医療を取材するようになってから考えるようになったのですが、2017年に起きたNHK記者の過労死問題を受けてその疑問が再燃しました。
働きすぎる→休まない(休めない)→疲れがたまる→死ぬ
この、「疲れがたまる」と「死ぬ」の間には何があるのか。
結論からいうと、疲れがたまることで病気が起こるメカニズムは解明されていないそうですが、医師によればある程度その流れは想定できるといいます。
やはり、「睡眠」「血圧」の2つの要素がカギになってくるようです。
今回の記事では、医療ライターショウブ(@freemediwriter)が過労死の定義と過労死を招く病気、働き過ぎによって死に至る流れについて書きます。ご参考ください。
「過労死」は1980年代から社会問題化
そもそも、何をもって「過労死」と言うのでしょうか。
ブリタニカ国際大百科事典と知恵蔵によると、過労死は「仕事上の過労やストレスが極度に達して起こる死亡」とされています。医学用語ではありません。
過労死が社会問題化したのは、バブル期に差し掛かる1980年代後半だそうです。
88年に弁護士のグループが相談窓口として「過労死110番」を大阪に開設、全国に拡大する中でこの言葉も一般に知れ渡るようになったといいます。
法的には2014年に制定された「過労死等防止対策推進法」の中で初めて定義づけられました。
過労死の労災認定基準
過労死が労災として認定される基準を見てみましょう。
厚生労働省は、「業務による明らかな過重負荷を受けたことにより発症した脳・心臓疾患は業務上の疾病として取り扱われる」としています。
厚労省「脳・心臓疾患の労災認定」(PDF)
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/rousai/dl/040325-11.pdf
具体的な認定要件としては、①「異常な出来事」、②「短期間の過重業務」、③「長期間の過重業務」―の3つの側面から検討されますが、中でも「疲労の蓄積をもたらす最も重要な要因と考えられる」のが労働時間です。
労働時間については、「発症前1ヵ月間に約100時間、または発症前2~6ヵ月間に1ヵ月あたり約80時間を超える時間外労働があった場合に、業務と発症との関連性が強い」としています。
午前9時―午後6時までの勤務時間で週休2日制、月の平均勤務日数が21日の企業の場合、毎日10時ごろまで働くと1ヵ月間における時間外労働は80時間に達し、毎日11時ごろまで働くと100時間に達します。
冒頭のNHK記者の場合、労働基準監督署に認定された、亡くなる直前の1ヵ月間の残業時間は159時間余りでした(遺族側が調査した結果では209時間余りに上るそうです)。
過労死を招く脳と心臓の病気
NHK記者の死因は心不全(うっ血性心不全)でした。
過労死を招く病気にはどんなものがあるのでしょうか。
過労死には2種類あり、働き過ぎによって精神疾患を発症して自死する場合が一つ。そしてもう一つが、体が病気になりその病気によって死ぬ場合であり、この記事では後者について調べました。
「かなまち慈優クリニック」の高山哲朗院長が監修した記事によると、過労死の原因には脳や心臓の病気が多いそうです。
厚労省が労災保険の対象にしている脳と心臓の病気は下の通り。
労災保険の対象になる病気
脳の病気
- 脳出血
- くも膜下出血
- 脳梗塞
- 高血圧性脳症
【脳卒中と脳梗塞】
脳卒中は脳に突然起こる病気の総称。血管が詰まる脳梗塞、細い血管が破れる脳出血、太い血管が破れるくも膜下出血に分類される
心臓の病気
- 心筋梗塞
- 狭心症
- 心停止(心臓性突然死を含む)
- 解離性大動脈瘤
【心不全】
病名ではなく、心臓の機能が低下して十分な血液を送り出せなくなった状態を指す。高血圧や心筋梗塞などさまざまな病気が原因になり得る
なぜ働きすぎると発病?
循環器を専門にする医師への取材経験から、生活習慣が原因で動脈硬化が徐々に進んでいき、脳や心臓の病気が発症するという流れはイメージできます。
しかし、なぜ働きすぎると病気が起こるのでしょう。
ネット上では有益な情報を見つけづらかったのですが、外科医の中山祐次郎先生が書いたこちらの記事が参考になりました。
中山先生は記事の中で、「(疲れがたまることで病気が起きる)メカニズムはあまりはっきりしていない」としつつ、「このようなストーリーが考えられる」と持論を展開しています。
その内容を要約しました。
働き過ぎることで疲れがたまり、睡眠時間が減る。その結果、血圧が上がる。
血圧が上がることで血管がダメージを受けて痛む(動脈硬化)。動脈硬化が進んだ結果、血管が詰まって脳梗塞や心筋梗塞が起き、また血管が破れると脳出血が起こる。
中山医師の持論を基にすると、「疲れがたまる」と「死ぬ」の間にある空白を埋めるとこうなります。
働きすぎる→休まない(休めない)→疲れがたまり、睡眠時間が減る→血圧が上がる→動脈硬化が進む→脳や心臓の病気が起きる→死ぬ
少し理解が深まったような気がしますが、このロジックを踏まえるとこんな疑問が生まれます。
- なぜ、疲労と睡眠不足で血圧が上がるのか
- 「動脈硬化は徐々に進む」と言われるが、過労の場合は急激に進むということか
過去の取材から、動脈硬化は徐々に進むものだという印象を受けていました。数年以上をかけて徐々に進み、最悪の場合に脳や心臓の病気が起きて死に至る、というイメージだったのです。
しかしながら、上に挙げた流れが本当だとすれば、動脈硬化の進み具合が非常に早いのではないか、という疑問が生まれます。
これらのことはまた取材の際に医師に聞いてみたいと思いますが、いずれにせよ、「疲労」「睡眠」「血圧」が健康を考える上では非常に重要なキーワードであることには変わりません。
働くことが生きがいになっている人もいますから、働きすぎることが万人の健康を損ねるものではないでしょう。
過労死には職場の環境や人間関係、仕事の内容、勤務時間などが複合的に関係すると考えられますが、「仕事による疲労は睡眠で軽減・解消を図り、疲れをためすぎないようにすることが健康の維持や増進には不可欠」であることは間違いないのではないでしょうか。
わたし自身、健康が収入の多寡に直結するフリーランスという立場上、「疲労をためないこと」「睡眠をしっかりとること」の2点は引き続き、心がけていこうと思います。
以上、医療ライター庄部でした。
記事内の情報、考え、感情は書いた時点のものです。
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