健康本レビュー

【食事本の傑作】『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』

『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』の表紙

素晴らしい「食事本」に出合えました。

健康的な食事や食べ物に関する情報は現在、本や雑誌、インターネットを通じてさまざまなに出回っていますが、医師である津川友介先生の書いた『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』(東洋経済新報社)は、「食事本の教科書」に相当する価値があります。

健康的な食事について知りたい人がいたら、「まずはこれを読んで」とぼくは勧めます。

なぜかというと、信頼性が高く、網羅性に富み、分かりやすく、実践しやすい、加えて読者にやさしい本だからです。

津川先生は自著の中で合理主義を徹底しているものの、それを読者に押し付けてはいません。

あくまでも信頼性の高い情報を伝えるに留めていて、行動を読者にゆだねている文体なんですね。

私は加工肉、赤肉、白い炭水化物などは「体に良くない」と説明しているのであって、「食べるべきではない」と主張しているのではない

全ての人はその食事によって得られるメリットとデメリットを十分理解した上で、何を食べるか選択すべきだと思っている。

甘いものが好きな人にとっては甘いものを食べることで幸せな気持ちになり、幸福度が上がるかもしれない。そういう人にとっては、甘いものをゼロにすることで健康にはなるけれども人生が全く楽しくなくなってしまうこともあるだろう。

そのような場合には、幸福度と健康を天秤にかけて、毎日少量の甘いものを食べるという食事を選択するのも合理的な判断であろう。―P40

バランス感覚に富む筆者の人柄が文章からにじみ出ていて、ぼくは好感を持ちました。

この記事では、『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』の優れていると思った点を解説していきます。

『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』を読んだ理由

なぜこの本を手に取ったのかというと、取材でお世話になった医師が津川先生の名を挙げていて、さらに医療に関心のある編集者が津川先生の食事本を勧めていたからです。

その医師は、首都圏で在宅医療を推進し、メディアの取材にも積極的に応えている佐々木淳先生(参考記事:「患者満足度」最下位の日本で「臨終」に希望を見た男)。

佐々木先生が取材の中で「面白かった本」として津川先生の別の著作(共著)である『「原因と結果」の経済学:データから真実を見抜く思考法』(ダイヤモンド社)を挙げていたんですね。

佐々木先生は津川先生の「ファン」であるらしく、この本について「易しく解説されていて統計学が苦手な私でも読みやすかった」と太鼓判を捺していました。

その後、編集者から『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』を勧められて、読んでみようと思った次第です。

津川友介氏のプロフィール

津川先生はカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)内科学の助教授です。

東北大学医学部を卒業後、ハーバード大学で修士号と博士号を取得。聖路加国際病院、世界銀行、ハーバード大学勤務を経て、2017年から現職に就いています。

筆者は医療政策学者で医師でもある。普段は食事や栄養の研究をしているわけではないが、膨大な研究論文から科学的根拠を読み解く教育をハーバード大学で受け、自身でも科学的根拠を明らかにする研究を日々行っている。―P12、13

津川先生は難解に思える医療や経済学のことをロジカルかつ易しく解説する技術に優れていて、先述した『「原因と結果」の経済学:データから真実を見抜く思考法』は『週刊ダイヤモンド』主催の2017年「ベスト経済書」の第1位に選ばれました。

また、『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』は2018年4月の発売後10日間で発行部数10万部を超えたそうです。

ツイッターやブログでも医療情報などを発信しています。

ツイッター:https://twitter.com/yusuke_tsugawa
ブログ:「医療政策学×医療経済学

『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』の優れている3つのポイント

この本の優れている点を3つに絞って挙げます。

1、エビデンスの捉え方が深い

まずは、エビデンス(科学的根拠)の捉え方が深いことです。

健康に良い食べ物かそうでないか、または健康に悪い食べ物かどうかを単なる一つの研究によって断定しているのではなく、エビデンスのレベルに応じて判断している点が本書の大きな特徴です。

説得力があるんですね。

津川先生は、「エビデンス」と一口に言っても複数のレベルがあり、調査の内容によってエビデンスの強弱が異なると説明しています。

エビデンスが強いものから見ていきましょう。

・メタアナリシス

津川先生が「最強のエビデンス」と話す、複数の研究結果をとりまとめた研究手法

1つの研究であればその特定の国民や集団にしか認められないパターンだったかもしれない可能性は否定できない。

しかし、10個も20個もの研究が、同じような食事と健康の関係を証明していれば、それはかなり信頼できると言える。―P36

・ランダム化比較試験

メタアナリシスは先述のように複数の研究結果をまとめたものですが、単体の医学研究は大きく分けて「ランダム化比較試験」と「観察研究」の2つに分けられるといいます。

このうち、ランダム化比較試験から得られた結果の方が観察研究のそれよりもエビデンスのレベルが高いといいます。

ランダム化比較試験

研究対象となる人を、くじ引きのような方法を用いて2つのグループが全く同じになるように分け、片方のグループだけに健康に良いと思われる食品を摂取してもらい、もう片方のグループには摂取しないでいてもらう方法である。

2つのグループはその食品を摂取しているかどうか以外の全ての点においてほぼ同じであると考えられるため、食品の健康に対する効果をきちんと評価することができる。―P35

・観察研究

ある集団における食事に関するデータを集めてきて、特定の食品をたくさん摂取しているグループと、あまり摂取していないグループを見つけて分析する。

何年(場合によっては何十年)後かに、この2つのグループそれぞれで病気になっていたり死亡していたりする割合を評価する。

ある食品をたくさん食べている人は、その他の食事、運動習慣、健康に対する意識なども違う可能性があり(多くの研究では統計的な手法を用いてそれら他の要因の影響を取り除いているものの、全て取り除けるわけではない)、本当に食品だけの影響を見ているのか難しいことがあるため、ランダム化比較試験と比べると劣る研究手法であるとされている。―P35、36

以上のことから、エビデンスのレベルは「メタアナリシス>ランダム化比較試験>観察研究」と表されます

メタアナリシスには、複数のランダム化比較試験をまとめたものと、複数の観察研究をまとめたものがあるので、さらに詳しくエビデンスのレベルを表すとすれば

「メタアナリシス(ランダム化比較試験まとめ)>メタアナリシス(観察研究まとめ)>ランダム化比較試験>観察研究」

こうなります。

ただ、時には1つのランダム化比較試験の方が、複数の観察研究をまとめたメタアナリシスよりもエビデンスが強いこともあるそうです。

2、わかりやすくて実用的

健康に良い食品と悪い食品がシンプルに分類されていてわかりやすいこと、つまり、覚えやすく、実生活に取り入れやすいことも本書の優れている点です。

津川先生は「全ての食品は5つのグループに分けられる」として、そのグループにそれぞれどんな食品が当てはまるかを提示しています(P32から引用)。

グループ 説明 食品の例
グループ1 健康に良いということが複数の信頼できる研究で報告されている食品 魚、野菜と果物、茶色い炭水化物、オリーブオイル、ナッツ類
グループ2 ひょっとしたら健康に良いかもしれない食品。少数の研究で健康に良い可能性が示唆されている。 ダークチョコレート、コーヒー、納豆、ヨーグルト、酢、豆乳、お茶
グループ3 健康へのメリットもデメリットも報告されていない食品。 その他の多くの食品
グループ4 ひょっとしたら健康に悪いかもしれない食品。少数の研究で健康に悪い可能性が示唆されている。 マヨネーズ、マーガリン
グループ5 健康に悪いということが複数の信頼できる研究で報告されている食品 赤い肉(牛肉や豚肉のこと。鶏肉は含まない)と加工肉(ハムやソーセージなど)、白い炭水化物(じゃがいもを含む)、バターなどの飽和脂肪酸

上の図のグループ1に含まれているのは、「最強のエビデンス」と津川先生が言うメタアナリシス、もしくはメタアナリシスに次いでエビデンスのレベルが高いランダム化比較試験によって健康に良いことが証明された食べ物であるそうです。

本書で言う「健康」は「病気になるリスクや死亡率」を示していて、「健康に良い食べ物」とはつまり、習慣的に食べることで病気になるリスクや死亡率を下げる食べ物を意味します。

グループ2に含まれているのは、いくつかの観察研究、つまりメタアナリシスやランダム化比較試験よりもエビデンスのレベルが低い研究で健康に良い可能性が示唆されている食品だといいます。

3、従来の価値観を覆す

健康に良い食事を考える場合、「成分」ではなく「食品」ベースで考えよ

津川先生のこのメッセージも非常にインパクトが大きく、目からウロコでした。ぼくの価値観を覆すもので、感動しました。

食べるものを考える時、肉や野菜といった「食品」と、リコピンや糖分といった「成分」の2つがある。

以前まではこの成分の中で何が体に良いのか研究されていた時代があるが、最近では、食品が重要なのであって成分はあまり重要ではないとされるようになってきている。―P42

津川先生は下の例を示して「成分信仰」に警鐘を鳴らしています。以下、P43~49の要約です。

「果物と果糖」

果物の成分である「果糖」は血糖値を上げる点では健康に良いとは言えないものの、果物そのものは健康に良い食品であるというエビデンスが十分にある。

果物の中の果糖を抽出して摂取すれば血糖値はすごく上がるものの、果物を丸ごと食べれば血糖値はそれほど上がらない

「緑黄色野菜とβカロテン」

緑黄色野菜や果物をたくさん食べている人に胃がんや肺がんが少ないことが報告され、これらに多く含まれるβカロテンによってがんが予防できるかもしれないと考えられるようになった。βカロテン入り飲料がブームになったこともあった。

ところが、βカロテンの効果を検証するランダム化比較試験を行ったところ、肺がんリスクを上昇させることが分かり、試験を中断せざるを得なくなった。その後、死亡率や心筋梗塞のリスクを高める報告も出された

つまり、野菜や果物を食べることで病気のリスクは下がるものの、そこから抽出されたβカロテンという成分を摂取すると健康になるどころか、むしろ病気のリスクを上げてしまう可能性がある

「トマトとリコピン」

「食品」としてのトマトはそれなりに体に良いが、実はトマトの成分である「リコピン」が体に良いというエビデンスはない。

血中のリコピン濃度とがん・心筋梗塞に相関関係があるという研究結果はあるが、リコピンを抽出して摂取することで病気の予防や死亡率の低下に効果があるというエビデンスはない

結論

健康的な食事をするために必要なのは体に良い「食品」を選ぶことであり、成分が重要なのではない

大切なのはいろいろな種類の野菜や果物を毎日たくさん食べ続けること。

驚きました。

ぼくと同じように、食べ物の成分に注目して食材を選んでいる人も多いのではないでしょうか。

「これはこの成分がたくさん含まれているからいい」「これは栄養(成分)がバランス良く含まれているからいい」

ぼくはこんなことを考えながらレシピを考えたり飲食店で料理を選んでいたりするんですが、それが適切ではなさそうだとわかります。

そもそも、豊富に存在する成分を基に食材や食品を選ぶのは判断材料が多くわかりづらいもの。

シンプルに健康に良い食品を積極的に食べて、健康に悪い食品をなるべく食べないようにすればよさそうですね。わかりやすい。

中盤以降の興味深い見出し

196Pある中の前半、49Pまででぼくが面白いと思ったところを要約しました。

50P以降も興味深い情報が次々に出てくるので、それらに関してはぜひこの本を手に取って知っていただきたいと思います。

51P以降に記されている興味深い見出しをピックアップしたのでご参考ください。

  • 白米と砂糖はほぼ同じ
  • オリーブオイルやナッツは脳卒中やがんのリスクを下げる
  • 野菜・果物は心筋梗塞や脳卒中のリスクを減らす
  • 「フルーツジュース」は糖尿病のリスクを上げる
  • 魚の摂取は心筋梗塞のリスクを下げる
  • 「茶色い炭水化物」は死亡率を下げ、数々の病気を予防してくれる
  • できるだけ白米は減らすべき
  • (赤い肉や加工肉は)大腸がんのリスクが高くなる
  • (同)脳卒中や心筋梗塞のリスクも上昇
  • インターネットを使って正しい健康情報を入手する方法

「本当にいいものを」筆者の心意気が伝わる良書

ぼくがこの本を強く勧めるのは、内容の面白さはさることながら、筆者の「本当にいいものを作りたい」という心意気がひしひしと伝わってきて、ぐっときたからです。

この本を作るのはすごく手間がかかったと思うんですね。

エビデンスのレベルに応じて判断していくのは単体の研究を基にするのに比べて調査に時間がかかりますし、また、本書は読者への信頼感を高めるために、説明の一つひとつにそのよりどころとなる参考文献もつけているんです。

172P~196Pまで、つまり24Pもの分量を参考文献と注釈に割いている実用書はちょっと珍しいのではないでしょうか。

『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』は間違いなく良作です。

2時間ほどで良質な情報が手に入ります。

ぜひ、健康に関心のある全ての人に読んでほしい。