予防と治療

高齢者の死因上位「誤嚥性肺炎」どう防ぐか【注目すべきは喉機能】

喉に手を当てる高齢女性
「誤嚥性肺炎」

多くの人が一度は聞いたことのある病気ではないでしょうか。

怖い病気の代名詞といえば「がん」や「脳卒中」、「心筋梗塞」が挙げられますが、健康に興味のある人であればこの誤嚥性肺炎のことも知っておいた方がいいと思います。

なぜなら、誤嚥性肺炎は高齢者の死因の上位であり、高齢化が進む中でさらなる増加が見込まれているから。

誤嚥性肺炎とはどんな病気で何が原因で起こるのか。どんな治療を行い、どうすれば予防できるのか。

網羅するので、参考にしてみてください。

誤嚥性肺炎とは

  • 誤嚥=食べ物や唾液が食道ではなく気道に流れること
  • 肺炎死亡者は3番目に多い
  • 高齢者の肺炎の約7割は誤嚥性肺炎

ぼくたち人間、というか動物もそうですが、口の中で噛み砕いた食べ物は通常、喉の先にある食道を通って胃に落ちますよね。

ところが、何らかの原因によって食道の隣にある気管に流れてしまうことがあります。

これを「誤嚥」(ごえん)といい、誤嚥した後に食べ物や唾液についた口の中の細菌が肺の中で繁殖すると、誤嚥性肺炎が起きます。

厚生労働省の調査によると、2017年に亡くなった日本人のうち肺炎で亡くなった人はがんと心臓の病気に次いで3番目に多く、9.9%を占めます

肺炎の中の誤嚥性肺炎の割合はおよそ3割で、肺炎患者を高齢者に限定すれば誤嚥性肺炎はおよそ7割まで上がると言われています。

つまり、誤嚥性肺炎は冒頭に書いたように、高齢者が死に至りやすい病気なのです。

誤嚥性肺炎の原因

  • 喉の筋力と神経の機能が低下→誤嚥発生
    ↑なぜ?
  • 加齢と病気(脳卒中、パーキンソン病、神経難病など)

誤嚥性肺炎を引き起こす誤嚥はなぜ起こるのでしょうか。

嚥下障害の治療に注力する歯科医師は「加齢に伴う筋力の低下と神経の鈍化が原因の代表」といいます。

食べ物を飲み込む上で重要なのは喉ぼとけと食道の動きで、喉ぼとけが上に上がるとそれに連動して食道が開くそうなんですね。

しかしながら年を取って喉の筋力が落ちてしまうと、喉ぼとけが上がりにくくなり、食道も開きにくくなるといいます。

また、高齢になると喉の神経の働きも落ちるため、食べ物が喉に残っていることを感じづらくなり、舌の付け根や食道の入り口に食べ物がたまりやすくなります。

こういったことが合わさって、食べ物が気道に流れやすくなってしまうというのです。

筋力が落ちたり神経の働きが鈍くなったりするのは加齢だけではなく、脳卒中の後遺症やパーキンソン病、多系統萎縮症(たけいとういしゅくしょう)という神経難病などが原因の場合もあるそう。

また、頚椎症(けいついしょう)という病気によって首の骨が喉の方に出っ張ってしまったり、喉頭がんや良性腫瘍ができたりして物理的に食道に食べ物が流れづらくなることも誤嚥の原因になり得るといいます。

その一方で、「注意してほしいのは、誤嚥したからといって必ず誤嚥性肺炎が起こるわけではないこと」と取材した歯科医師は話していました。

加齢や病気によって免疫力が落ちることで細菌が繁殖しやすくなるので、発症の直接的な理由は免疫力の低下です。

高齢者は喉の筋力と神経の働きが低下して飲み込みの機能の異常(嚥下障害)を起こしやすくなり、さらに若い人に比べて免疫力も低下しやすいので、誤嚥性肺炎が起こりやすくなる、というわけなんですね。

症状と診断・治療方法

誤嚥性肺炎の症状は、「発熱やせきが続く」「色のついた痰が出る」「食欲や元気がない」といった風邪の諸症状と共通するそうです。

どの診療科が対応しているか一般の人にはわかりづらいかもしれませんが、誤嚥性肺炎を診ている診療科はリハビリテーション科や呼吸器内科、歯科が中心で、耳鼻咽喉科で治療を行っているケースもあるといいます。

これらの診療科で痰を採取しての細菌検査や血液検査、レントゲン撮影を行って病気かどうかを判断し、該当すれば飲み薬や点滴で抗菌薬を投与して治療を行っていきます。

嚥下障害の早期発見法

では、どうすれば誤嚥性肺炎を予防できるのでしょう。

文章を読んできた人であれば、「大元の原因となる嚥下障害を予防したり、治療して改善を図ればいいのでは?」と想像がつくのではないでしょうか。

ではでは、その嚥下障害が起きているサインは何なのでしょう。

取材した歯科医師は「誤嚥性肺炎と共通する」といいつつも、それ以外としては以下の症状が目立つといいます。

嚥下障害の症状…誤嚥性肺炎と共通。それ以外としては↓

  • 薬が飲み込みにくい
  • 口角からよだれが垂れるようになった
  • かすれ声になる

口角からよだれが垂れるのは、喉の機能が落ちることで口の中に唾液がたまりやすくなったからであり、また、かすれ声になるのは、喉の神経がうまく働かなくなることで声帯が十分に閉じなくなって声が出にくくなっているからだそう。

嚥下障害セルフチェック法

30秒間で3回、唾を飲み込めない
嚥下障害の可能性大

嚥下障害が起きているかどうかはある程度自分でも確かめられるそうで、歯科医師によると、30秒の間で3回、唾を飲み込めないときは高い確率で嚥下障害が起きているといいます。

嚥下障害の治療方法

嚥下障害の治療方法は喉をマッサージしたり舌を動かしたりするリハビリ療法が一般的だそうですが、一部のリハビリテーション病院やぼくが取材したような嚥下治療に注力する医療機関では、喉の筋肉や神経に電気刺激を与えることで筋力アップや神経機能の正常化をめざす治療を行っているといいます。

自宅でできる喉トレ

  • 額に手を当てて上に引っ張りながらへそをのぞきこむ
  • 仰向けに寝た状態で肩を床につけたままつま先が見えるまで頭だけを上げる
    ⇒これらを1日5~10分

喉の機能低下を防いだりその向上をめざしたりしたい人は自分で取り組める体操も有効とのことですので、上の方法を参考にしてみてください。

口の中のケアもしっかり

誤嚥性肺炎は口の中の細菌が食べ物や唾液と一緒に気管に流れ、肺の中で繁殖することで起こるため、日ごろから口の中の細菌量を減らしておく、つまり丁寧に口腔ケアを行っていくことも大切です。

誤嚥は食事中だけでなく就寝中に起こることもあるため、「特に夕食後や就寝前には丁寧にケアを行うことが大切」と歯科医師はいいます。

歯ブラシだけはなく、フロスや歯間ブラシも使って食べかすや細菌が集まる歯垢を取り除いておきましょう。歯周病の人はしっかりと治療を。

誤嚥を防ぐために! 食事中の注意点

食事中と食事後の注意点も役立つと思うので、伝えますね。

  • 上体を真っすぐに起こして食べる
  • テレビを見るために首をひねって食べない
  • 体を横にするのは食事後30分以上経ってから

まずは食事中に上体を真っ直ぐに起こしておくこと。

「背もたれが後ろに傾いているイスに座って背中をつけていると、頭の角度も後ろに下がってあごが上を向いてしまうため、食べ物が気道に流れやすくなります」(歯科医師)

次に、首をひねった状態で食べないこと。

「片側の喉がつぶれて飲み込むスペースが狭くなるため、食べ物が気道に流れやすくなります。食事をする際にどうしてもテレビを見たい方は、自身の正面に機器を置きましょう」(同)

最後に、体を横にするのは食事を終えて30分以上経ってからにすること。

「高齢者は喉に食べ物が残りやすくなるためです。食事をした直後に体を横にすると、逆流性食道炎によって食べ物が逆流し、さらにその後に気管に入ってしまうことがあります」(同)

生活習慣病の予防も大切

「誤嚥性肺炎って年寄りがなるもんでしょ。関係ないよ」

そんな風に思う中年までの人もいると思うのですが、「高血圧症にも注意」と歯科医師は話していました。

中年以降に発症率が上がる高血圧症は進行すると脳卒中の原因になり、脳卒中を起こすとその後遺症で嚥下障害が起きやすくなるためです。

生活習慣病を予防し、早いうちに治療に取り組むことが結果的に誤嚥性肺炎の予防にもつながるわけですね。

医療ライター庄部の雑感

誤嚥性肺炎と嚥下障害をテーマにした取材は非常にスリリングでした。

喉ぼとけが上がることで食道も開くといった人間の体の仕組みが知られて面白かったですし、死亡←誤嚥性肺炎←嚥下障害←生活習慣病といったように、問題が問題を招くといったストーリーを知られるのは、小気味よく扉が開いて一本の道が見えてくるような爽快感にも似た思いがしました。

食べることって、ぼくにとっては当たり前なんですよね。

でも、口の中に問題が起きてそれが難しくなった人の嘆きをいろんな歯科医師から聞くにつれて、「失われて初めて気づく大切さ」を想像することもある。

ぼくはまだ喉のトレーニングを行った方がいい状態ではありませんが、常に口の中の環境を良くしておくこと、年を取ったら嚥下障害のセルフチェックを行ってみること―少なくともこの2つは胸に留めておきたいと思います。

最後に、嚥下障害の治療を行っている医療機関はウェブサイト「摂食嚥下関連医療資源マップ」で調べられるので参考にしてみてください。

これは嚥下治療の研究者たちが厚生労働省の補助を受けてまとめたもので、随時、情報が更新されるようになっています。