予防と治療

いびきが命の危機を招く? 睡眠時無呼吸症候群の怖さと原因、治療法

いびきがうるさいあまりパートナーの鼻をつまむ女性
「いびきがうるさい」

家族やパートナーからそう指摘されたことのある人もいるでしょう。

ぼくはどうやらいびきをかいていないようですが、前妻が大きくいびきをかく人だったので、結婚していたときはなかなか寝られませんでした。

そんなわけで医療ライターとしての関心事でもあったいびき。

いびきを伴う睡眠時無呼吸症候群(SAS・サス=Sleep Apnea Syndrom)が実は様々な合併症を招く恐れのある病気だと知ったので、この病気の概要と原因、診断・治療方法を書きます。

この記事を読めば、「たかがいびき、されどいびき」であることがわかるはず。

いびきが起こる仕組み

そもそも、なぜ人はいびきをかくのでしょうか。

睡眠時無呼吸症候群の診断と治療に携わって25年のキャリアを持つ医師によると、それは気道が狭くなっているから。

人は寝ているとき、体を休めるために全身の筋肉が緩みますが舌も例外ではなく、舌と口周りの筋肉が緩み、重力によって下に下がることで気道が狭くなるといいます。

いびきをかく仕組みいびきをかく仕組み(日本呼吸器学会ホームページから引用)

そうなった状態で空気が通ると気道の壁が振動し、音が発生します。これがいわゆる、いびきの音です。

さらにこの状態がひどくなるとどうなるか。

気道が完全に閉じてしまうので呼吸ができなくなってしまいます。

すると今度は脳が命の危険を察知して覚醒し、呼吸を促す指令を出して喉を開かせ、空気が入るようにさせます。

「グオォ」といびきをかいている人が途中で「スッ」といびきをしなくなることがありますが、それはこんな風に脳が無理に呼吸をさせているためなんですね。

しかしこの状態も一時的であり、再び気道が狭くなっていびきをかくようになる。

これが、いびきと無呼吸を繰り返す仕組みです。

睡眠時無呼吸症候群とは

いびきと無呼吸を起こす人が全員、睡眠時無呼吸症候群かというとそうではなく、医学的な基準が設けられています。

7時間の睡眠の中で、10秒以上にわたって呼吸が止まったり止まりかけたりすることが1時間に5回以上繰り返されれば病気に該当するそう。

これらの回数が5回から15回未満だと「軽症」、15回から30回未満が「中等度」、30回以上だと「重症」とみなされます。

気道が狭くなる理由

頭蓋骨

いびきは気道が狭くなるために起こるそうですが、ではなぜ、気道が狭くなるのか。

最も大きな原因は、顔の骨格にあるそうです。

日本人を含む東アジアの人は顔が上下に長い一方で奥行きが狭いため、あごが小さい特徴があるらしいんですね。

あごが小さいと喉が狭くなるので、いびきをかきやすくなる。つまり、日本人はそもそもいびきをかきやすい性質を持っているというわけです。

さらに、肥満のために喉に脂肪がついていたり、加齢や飲酒によって筋肉が緩みやすくなったりすると気道が狭くなりやすくなるので、いびきをかきやすくなるそう。

また、喫煙している人は喉に炎症が起きやすくなって粘膜が肥大しやすくなるので気道が狭くなってしまいやすくなるといいます。

取材した医師によると、患者の男女比について正確なデータはないといいますが、月経のある女性は分泌される女性ホルモンが呼吸を促すため無呼吸にはなりにくく、閉経後は女性ホルモンの分泌が減るため男女間の違いはなくなるそうです。

取材した医師が運営する専門クリニックに来院する患者の男女比は7対3で、20代から90代の患者のうち多いのは40代から70代ということでした。

「真に怖いのは合併症」

画像
睡眠時無呼吸症候群になると、どんな弊害が起こるのでしょうか。

・夜間頻尿
・日中の眠気が増す
・集中力が低下する
・疲れやすくなる

睡眠の質が低くなることでこんな症状が起こり得ますが、「本当に怖いのはさまざまな合併症のリスクが上がること」と取材した医師は強調していました。

複数の研究結果をもとに医師が作ったというデータによれば、睡眠時無呼吸症候群ではない人に比べて以下の病気になる確率がこんなにも高くなってしまうそうなんです。

・高血圧症と狭心症 約3倍
・心筋梗塞 約4倍
・脳卒中 約11倍

いびきや無呼吸によって血中の酸素濃度が低下すると、心臓が無理に血流を増やして全身の筋肉や臓器に酸素を届けようとするため、心拍数や血圧が上昇します。

すると、高血圧症や狭心症のほか、命に直接危険を及ぼす心筋梗塞や脳卒中が起こる可能性も大幅に上がってしまうというのです。

最悪の場合は睡眠中に不整脈が起きて突然死してしまうこともあるといいます。

また、頭の血管が拡張することによって、起床後に片頭痛と同じような痛みが起きやすくなったり、交感神経と副交感神経のバランスが崩れて血中糖度を下げるホルモンのインスリンが効きづらくなることで糖尿病が起きやすくなったりもするそうです。

診断は2ステップ

続いて、診断方法と治療方法を説明します。

診断までには、①自宅でできる簡易検査を行い、②異常が指摘された場合に精密検査を行う―という2つのステップがあります。

簡易検査は自分で小型の機器を使ってセンサーをつけ、寝ている間の体内の酸素飽和度を調べて無呼吸の有無を確かめるもの。

精密検査は医療機関に一泊し、臨床検査技師が全身の20カ所にセンサーをつけて呼吸の状態や脳波、心電図などを計測するもの。

精密検査はポリグラフ(PSG)検査と呼ばれていて、大学病院や睡眠障害を専門にするクリニックなどで行われています。

こうした流れを辿った上で、「睡眠時無呼吸症候群」と診断されれば、健康保険を利用して治療を受けることができます。

治療方法は主に2つ

治療方法としては、「マウスピース療法」と「CPAP(シーパップ)療法」の2つが挙げられます。

マウスピース療法は、無呼吸または低呼吸の回数が1時間に20回未満の患者を対象としたもの

マウスピースを着けた状態で寝ると下あごが上あごよりも前方に出るため気道が広がりやすくなり、いびきの軽減が見込めるそうです。

ただし無呼吸をなくすことはできず、中等度以上の患者への効果は低いといいます。

一方のCPAPは「Continuous Positive Airway Pressure(経鼻的持続陽圧呼吸療法)」の略称で、無呼吸または低呼吸の回数が1時間に20回以上の人が適用になります。

専用の機器を使って鼻から人工的に空気を送り、その圧力で気道を広げる治療方法で、患者は医療機関から機器を借りて自宅で使用します。

CPAPの写真CPAPの写真(大阪回生病院ホームページから引用)

CPAPの仕組みはシンプルですが、これが睡眠時無呼吸症候群の治療では最も効果が高いそう。

低酸素状態も無呼吸もなくなるため、結果的に合併症のリスクもなくなるといいます。

費用と注意点

注意点
費用はマウスピースの作製が約1万5千円で、CPAP療法が月に約5千円。いずれも人工的に気道を広げるものなので、継続的に治療を行う必要があります。

治療によらずして、症状の軽減が見込める方法もいくつかはあるといいます。

肥満や飲酒、喫煙によって症状がひどくなっている人は減量や飲酒量の低減、禁煙を図ることで症状を和らげられる可能性があり、仰向けでなく横向きに寝ることも舌の位置がずれるため有効だそう。

いびきのためにうまく眠れないからといって睡眠導入剤を使う人がいるそうですが、これは医師いわくNG。

睡眠導入剤は筋肉を緩める作用があるため、症状をひどくする恐れがあるそうなんですね。

医療ライター庄部の雑感

「主因は顔の骨格」「完治はしない」

こう聞いてなんだかやるせない気持ちを抱くのはぼくだけじゃないと思うんですが、顔の骨格が原因なのであれば物理的に気道を確保し続けなければ、つまり治療を続けなければ症状は軽減しない、というのはわかります。

まずは病気の全体像を知っておくことが大切で、何を選択するかはその人次第。

ぼくがいびきをかく人であればどうするだろう。

程度によりますが、家族やパートナーに迷惑をかけている、あるいは睡眠の質が低くて支障が出ているようであれば専門の医療機関を受診するのではないでしょうか。

重度でCPAPが適用になる場合は継続的にお金がかかるので治療を受けるのにそれなりの覚悟がいりますが、マウスピースで軽減されれば経済的な負担は少なくて済むので。

取材の最後に、医師が印象的なことを言っていました。

睡眠時無呼吸症候群を治療するのは、生活習慣病を治療するのと似ていると思うんですよ。

多くの場合に症状がない生活習慣病を治療するのはなぜかというと、それは、進行した場合に起こり得る心筋梗塞や脳梗塞を予防するためですよね。つまり、死なないようにするため。

睡眠時無呼吸症候群も生活習慣病と同じように命の危機を招く合併症を起こす可能性があるわけですから、ひどい人は軽視してほくない、というのが医師としてのぼくの思いです」