予防と治療

日本人がかかりやすい胃がんの予防法「30代までにピロリ菌検査を」

お腹を押さえる女性
「がんになるのは仕方ない」「がんは死ぬ病気」

取材する医師によると、患者の中にはこんな風に思っている人もいるらしいのですが、胃がんと大腸がんは予防と早期発見・早期治療による完治が図りやすくなっているようです。

おなかの病気を専門にする消化器内科医は口々にそう話しますし、中には「胃がんと大腸がんで死ぬのはもったいない」と言う人も。

今回は、防ぎやすいがんの一つである、胃がんを予防する方法について書きます。

結論から言うと、「胃がんの原因の9割以上はピロリ菌という細菌で、ピロリ菌に感染していれば除菌することで胃がんは防げる。以上」

という感じなのですが、それだとピンと来づらいと思うので、そもそも日本人が胃がんでどれくらい死んでいるか、なぜピロリ菌によって胃がんが起きるのか、どうすればピロリ菌を見つけられて除菌できるか、といったことも伝えようと思います。

ぼくが書くことは複数の消化器内科医から聞いた話や厚生労働省、国立がん研究センターなどの発表をもとにしています。参考にしてみてください。

なお、今回の記事の内容は動画で見られます。見た方が、聞いた方が楽な方はこちらをどうぞ。長さは約6分です。

胃がんは日本人がかかりやすく、死にやすいがん

防ぎやすいがんと伝えましたが、日本ではまだ胃がんで多くの人が死んでいる状況です。

厚労省の調査によると、2017年における日本人の死因のトップはがんで、割合としては27.9%。この中で胃がんは男性で2番目、女性で4番目に多く、病気になった人数自体も2014年ではがんの中で2番目に多かった、というデータがあります。

つまり、胃がんは日本人がかかりやすく、死ぬ可能性もまだ高いがんだということです。

「胃がんの原因はピロリ菌」日本人医師が解明

その一方で、「ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)を除菌すれば胃がんは防げる」というのが医師の中では定説になっていますが、これを突き止めたのは実は日本人。上村直美さんという男性医師です。

彼が、ピロリ菌感染者の2・9%に胃がんが起きて、感染していない人は全く胃がんにならなかった、という研究結果を2001年に発表したことで、胃がんの原因が世界的に知られるようになったといいます。

ピロリ菌が感染し、がんが起こるまで

流れをイメージしたイラスト
ピロリ菌によってなぜ胃がんが起きるのか。過去に取材した複数の消化器内科医の話をまとめると答えはこう。

ピロリ菌の大きさは4ミクロン(4/1000㎜)。この微小な細菌が何らかの理由で5歳ごろまでに人間の口から感染します。

感染ルートは不明ですが、今のところ、井戸水や人間同士の口移しだと考えられています。

胃では食べ物を消化するために金属さえも溶かしてしまう胃酸が出されていますが、ピロリ菌はアルカリ性のアンモニアを作り出して胃酸を中和するので生き延びることができます

さて、胃に住みついたピロリ菌が何をするか。

ピロリ菌の体の表面には細い注射針のようなとげがあり、ピロリ菌はこれを胃の細胞に刺して「CagA(キャグエー)」という特殊なたんぱく質を送り込みます。

CagAには胃の細胞を異常に増やしたり、細胞同士をバラバラにして炎症を起きやすくしたりする働きがあり、これらが繰り返されることでがんが起きやすくなります。

胃の状態がどう変化するかというと、ピロリ菌に感染することでまずは胃炎が起き、胃炎が慢性的に起こっているとやがて胃の粘膜が薄くなる萎縮性胃炎に移行します。

さらに進むと、胃の粘膜が腸のように変化します。これを腸上皮化生(ちょうじょうひかせい)といい、胃炎→萎縮性胃炎→腸上皮化生の過程をたどった後にがんは起こるというのです。

内視鏡検査だけを保険適用にした厚労省の思惑

では、どうすればピロリ菌を見つけられるのでしょう。

方法だけに限れば血液検査や尿検査、便検査、吐く息を調べる呼気検査といったように様々ですが、健康保険を利用して安価に検査と除菌を受けたい場合は必ず内視鏡検査を受ける必要があります

厚労省がなぜこんな仕組みにしたかというと、それは胃がんの早期発見と早期治療を促したいからだそう。

胃がんは予防しやすいがんですが、病気になった後に重要なのは多くの病気と同じように早期発見・早期治療。

全国がんセンター協議会の調査によれば、ステージ1での5年生存率は97.4%と非常に高く、早期治療で完治が見込めるがんであるといえます。

一方、ピロリ菌を除菌する目的はあくまでも胃がんの予防にあり、胃がんがあれば除菌しても治らないわけですから、数あるピロリ菌検査の中でもがんを見つけられる内視検査だけに健康保険を適用させたというわけです。

「これはいい仕組み。おかげで早期胃がんの発見が大幅に増えたんですよ」と取材した医師は話していました。

検査から除菌までの流れ

胃の経鼻内視鏡検査を受ける男性胃の経鼻内視鏡検査を受ける庄部

話を戻します。

ピロリ菌の有無を検査して除菌するまでの流れとして、まずは内視鏡検査を行って検査中に組織を取ったり、後で血液検査や呼気検査を行ったりしてピロリ菌がいるかどうかを確認します。

そして、ピロリ菌がいた場合は除菌するために抗菌薬と胃酸の分泌を抑える薬を1週間にわたって飲み続けます。

除菌できたかどうかを確認できるのは治療を終えて4週間後。

1回目で除菌に成功する確率は約90%で、除菌後もピロリ菌が確認された場合は抗菌薬の種類を変えて再び除菌を試みます。

費用は、内視鏡検査だけだと3割負担の人で約6千円。ピロリ菌を調べる検査と除菌を含めると1万5千~1万8千円です。

感染率は高齢者ほど高い

胃がんの原因と予防方法、具体的な流れはわかったと思うのですが、「そもそも、日本人ってどれくらいピロリ菌に感染しているの?」というのも気になることではないでしょうか。

今は衛生環境が良くなっていることもあって子どもへの感染率は低く、10代では10%未満。

その一方で、年齢が上がるほど感染率は高くなり、60代、70代では約半数に及ぶといいます。

医師に教わったことですが、感染率の目安は自分の年齢に20を引くと出せるのでやってみてください。例えばぼくは34歳なので、34-20=14で14%という具合。

ちなみに、ぼくにはピロリ菌はいませんでした。

除菌してもまれにがん発症「30代までに除菌を」

注意したいのが、ピロリ菌除菌は万能ではないこと。というのも、除菌したとしてもまれに胃がんが起きるそうなんですね。

除菌すると徐々に胃がきれいになっていくわけですが、除菌した時点で胃炎が進んでしまっていると、きれいになる途中でがんになってしまう恐れがあるといいます。

このことを調査した医師に聞いたところ、除菌後にがんが起きたのは965人のうち21人、つまり100人に2人の割合でした。

除菌した時点で胃炎が進んでいる人ほど除菌後がんのリスクは高くなり、胃炎は感染してから時間が経つほど進むので、その医師は若い30代までの検査と除菌を勧めていました。

さらに、除菌後も定期的に検査を受けることでリスクは最大限まで減らせるそうです。

ピロリ除菌で胃潰瘍や十二指腸潰瘍も防げる

それと、ピロリ菌を除菌することで胃がんだけではなく、胃潰瘍や十二指腸潰瘍も防げることは知っていただきたいですね。

ぼくはこれら一連の話を聞くにつれて胃の内視鏡検査を受けたい気持ちが強まり、取材した医師が院長を務めるクリニックで実際に受けました。

その模様をスタッフの方に撮影してもらい、詳細に書いたので参考になるかと思います。ぼくの胃の中の写真も載せています。

医療ライターが胃の経鼻内視鏡検査を体験【流れやつらさ、注意点まで徹底レポート】

多くのがんは40歳以降に発症率が上がりますが、中には20代、30代でかかってしまう人もいます。若いほど進行が速いことが多く、死亡する危険性も高まります。

早く見つけられたことで完治したそうですが、ぼくの友人も34歳で胃がんになりました。

胃の内視鏡検査は値段がさほど高くありませんし、今は検査を行っているクリニックも増えてきましたから、ぼくも取材した医師と同じように、早めに受けてほしいと思っています。